相続時精算課税制度の利用が
避けられてきたワケ
今年の法改正も踏まえると、今後相続時精算課税制度はさらに利用者が増す可能性は高いだろう。高齢者から若年層へ財産を承継できる本制度に、関心を持っている方も多いのではないか。しかし、本制度は暦年贈与と比較すると利用が避けられてきた過去もある。その理由は主に以下の4つだ。
まず1つ目は「暦年贈与に戻れない」という点である。年間110万円までの贈与なら非課税である暦年贈与は、広く活用されている贈与方法だ。暦年贈与は相続時精算課税制度とは異なり、贈与者・受贈者の双方に制限がない。自分の財産を誰に贈与しても適用される柔軟な贈与のしくみだ。
しかし、一度相続時精算課税制度に切り替えてしまうと、便利な暦年贈与には戻れない。長く暦年贈与を使っている方にとっては、相続時精算課税制度の魅力は低く感じるだろう。
2つ目は「必要書類が多い」点である。相続時精算課税制度の利用にあたっては、選択届出書や受贈者の戸籍謄本などを提出する必要があり、こちらも暦年贈与と比較すると手続きがややこしいのだ。電子申告も可能だが、最初に贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までに、書類を整えて税務署に提出する必要がある。
次に3つ目は「そもそもあまり知られていない」という問題である。贈与は暦年贈与しか知らないという方は多く、相続時精算課税制度はもちろん、教育資金の一括贈与やおしどり贈与などはあまり知られていない。贈与の方法には暦年贈与以外の選択肢もあるが、手続きの複雑さや対象者が限られているなどの理由から、見落とされる傾向がある。
最後に4つ目は「贈与税の先送り、というイメージが強い」点だ。相続時精算課税制度は贈与時には税金を納めなくてもよいが、相続時にはその他の遺産と合わせて相続税計算をするため、結局相続税として税金を納めなければならない可能性もある。手続きがややこしく、税金も将来支払う必要があるなら…と本制度利用のメリットはない、と判断する人は多い。