買収防衛策は「バーゲンセールの貼り紙」モノ言う株主が断言する理由写真はイメージです Photo:PIXTA

日本の株式市場には、独特の慣習が少なからず存在する。その一つが、経営者の保身のためともいえる買収防衛策だ。株主を含めたすべてのステークホルダーが不利益を被っている手法と実態について、日本屈指のアクティビストが徹底解説する。本稿は、丸木 強『「モノ言う株主」の株式市場原論』(中公新書ラクレ)の一部を抜粋・編集したものです。

アメリカとはまるで異なる
経営者の保身のための買収防衛策

 日本の株式市場には、独特の慣習が少なからず存在します。それが日本企業や日本経済の発展に寄与するならまったく問題はありませんが、実際は逆。経営者の保身のために、株主を含めたすべてのステークホルダーが不利益を被っている例が多いのです。

 その典型が、買収防衛策。これはアメリカ発祥のもので日本に特有の慣習ではありませんが、その運用実態がアメリカとは異なると感じます。広義の買収防衛策としては、安定株主づくり、取締役の任期を2年として毎年約半数が交代で選任されるようにする(期差選任)、などもありますが、ここでは平時に株主総会決議によって導入する狭義の買収防衛策についてお話しします。

 狭義の買収防衛策とは、買収対象会社の取締役会が、発行済み株式の20%以上となるような大規模買付け行為を行う買収者を「株主共同の利益(株主全体に共通する利益)を害する者」と判断した場合に、買付け者以外の株主に対して新株予約権を無償で割り当てるというものです。

 この判断のために、買収者に対して情報提供を要請し、60日間程度検討すると定めるのが通例です。新株予約権を発行すれば買収者の持株比率を下げるだけではなく希薄化(増資により既存株主の持ち分が薄まること)により株価も大きく下落することになるため、買収者は買収提案の撤回を検討せざるを得なくなる。これが狭義の買収防衛策の効果です。

買収防衛策を導入することは
「バーゲンセール」を明かすようなもの

 しかし「悪い企業」を見つけて投資することを生業としている我々からすると、導入している企業はむしろ自ら「バーゲンセール」の貼り紙をしているようにしか見えません。効率的な経営をして株価がそれを反映していれば、そもそも防衛の必要などないはずです。ところが株価が割安に据え置かれているから、買収の対象になり得る。また経営陣はそれを自覚しているから、何らかの買収防衛策に頼らざるを得ないわけです。それはむしろ「うちの会社は割安ですよ」「我々は会社の価値を高める自信がありません」と宣伝しているようなものなのです。

 我々の投資は、基本的に企業買収を目的としていません。経営者に対して交代を要求することはあっても、過去に発行済み株式の過半数を買い占めたこともありません。ただ投資先を選ぶ際、買収防衛策を導入しているかどうかを判断材料の一つにすることはあります。絶好の「割安」のシグナルだと考えているからです。