ハリス副大統領は
トランプ氏に勝てるのか

 米国の民主主義と法の支配を守るためにトランプ氏を倒すというバイデン大統領の目標はハリス副大統領に引き継がれたが、はたして実現できるのか。

 ハリス氏の選挙陣営の基本戦略はバイデン氏と同じで、今回の大統領選をトランプ前大統領に対する国民投票にするというものだ。

 つまり、「前回の大統領選で大規模な不正があったとうその主張を続け、熱狂的な支持者を煽って連邦議会襲撃事件を引き起こしたような人物の再選を許せば、米国にとって大惨事になる」「国民にとって最善の選択は民主党とともに歩み続けることだ」と、有権者に訴えていくことである。

 バイデン大統領の撤退表明から数日で党の指名をほぼ確実にしたハリス氏は7月23日、最初の選挙集会を大統領選のかぎを握る激戦7州の1つ、ウィスコンシン州ミルウォーキーで行った。

 ハリス氏は集まった数千人の熱烈な支持者を前に、「私たちが住みたいのは自由、思いやり、法治の国でしょうか?それとも混乱、恐怖、憎しみの国でしょうか?」と問いかけた。

 それから彼女は、不倫口止め料をめぐる裁判で34件の重罪で有罪評決を受けたトランプ氏を念頭に置いたかのように、「カリフォルニア州の元司法長官である自分はトランプ氏を追及するのに適任だと思います」と述べ、こう続けた。

「私はあらゆる種類の加害者と対峙してきました。女性を虐待した者、消費者から金をだまし取った詐欺師、自分の利益のために法律を破った者。ですから、トランプ氏の類の人間のことはよくわかっています」

 すると、会場は大きな歓声と拍手に包まれた。バイデン大統領の集会ではほとんど見られなかった光景である。

 一方、トランプ氏は翌24日、同じく激戦州のノースカロライナ州シャーロットでの集会で、ハリス氏に対する新たな攻撃を開始した。

「カマラ(ハリス氏)は超リベラルで、史上最悪だ」「(移民対策では)国境を開放し、世界中から2000万人の不法入国者が押し寄せた。国境のことをまったくわかっていない」とこき下ろした。

 トランプ氏が攻撃したのは、バイデン政権発足直後の2021年3月、メキシコとの国境に入国希望者が殺到したことを受け、ハリス副大統領が移民管理の責任者に任命された時のことだ。

 たしかに当時、ハリス氏は移民対策で期待された成果をあげることができず、メディアの批判も受けた。しかし、「これは非常に難しい仕事だった」とバイデン大統領も認めているように、「ハリス氏だけの責任ではない」との見方もある。それでもトランプ氏と共和党はハリス氏を、「バイデン政権の不人気な移民政策の顔(根本的な原因)」に仕立てあげようとしているようだ。

 ハリス副大統領は3年半の間、目立った実績をあげていないため、今後、彼女の能力を疑問視するような批判や攻撃にさらされる可能性は高い。これにどう対応していくのかが重要になってくるが、ハリス氏は9月10日に予定されているトランプ氏との討論会について、「準備はできています。討論会で有権者に両者の違いを見てもらうことができます。やりましょう」と述べた。

 6月27日の討論会で苦戦してからバイデン氏の支持率は急落し、7月上旬にニューヨーク・タイムズ紙が発表した世論調査では、投票が見込まれる有権者の間でバイデン氏はトランプ氏に6ポイントリードされてしまった(討論会の前はほぼ拮抗していた)。

トランプ大統領が“復活”したら何が起きる?再選後に目論む「恐ろしい計画」とは『アメリカ白人が少数派になる日』(かもがわ出版)矢部 武 (著)

 しかし、同紙が7月25日に発表した最新調査では、トランプ氏とハリス氏は48%対47%でほぼ互角となり、バイデン氏が討論会後に失った支持をハリス氏が取り戻した形となった。他の主要な世論調査でも、両者の支持率はほぼ互角となっている。

 バイデン大統領の高齢不安などで離れていった黒人や女性、若者などの有権者も、ハリス氏の候補指名が確実となってから、徐々に戻ってきているようだ。はたしてハリス副大統領はトランプ氏に勝てるのか、2人の戦いはこれからが本番である。