鉄拳シリーズは2024年で30周年を迎えます。シリーズ累計販売本数は5500万本に達しており、eスポーツにも力を入れています。3D格闘ゲームのカテゴリーにおいては、ナンバーワンだと自負しています。

宇田川南欧 バンダイナムコエンターテインメント代表取締役社長うだがわ・なお/1974年、東京都生まれ。94年、バンダイに入社。デジタル分野の事業開拓に携わり、2015年、バンダイナムコエンターテインメント初の女性取締役に就任。18年に同社常務取締役、21年にBANDAI SPIRITS代表取締役社長を経て、23年4月にバンダイナムコエンターテインメントの代表取締役社長に就任。 Photo by M.K.

 実は3D対戦格闘ゲームは、ゲームハードの性能をフルに引き出す最先端の技術力が結集したジャンルの一つです。技術的要件から新規参入の障壁が高く、各世代のゲームハードのオンリーワンのベンチマークタイトルとして売り出せたのがよかったです。特に欧米では「ハイエンドなタイトル」としての認知が高いですね。

 成功の要因はユーザーコミュニケーションの継続とゲームの進化です。SNSや配信を通じてユーザーと製作者が直接コミュニケーションを取り、新しいキャラクターやコンテンツに対するフィードバックをすぐに取り入れることができる点も大きな要因です。

 これまでファンの声に耳を傾けて密度の高い定性情報を集めたり、SNSの登場以前も海外への現場視察やインターネット掲示板などを活用してファンとのコミュニケーションを重視したりしてきました。

鉄拳、アイドルマスター…バンダイナムコの成長を支えている長寿シリーズの誕生秘話TEKKEN™8 &©Bandai Namco Entertainment Inc.

 開発やマーケティングの現場担当にもこのマインドが浸透しており、開発やマーケティング戦略に効率よく反映できました。

 また早くから世界市場に注目し、各地で大規模なマーケティング調査を継続的に実施し、SNS誕生以前も海外への現場視察やインターネット掲示板などを活用し、ファンとのコミュニケーションを重視してきました。そのかいあって、地域ごとの細かなニーズを把握し、開発に反映しました。

 同時に、家庭用ゲーム機ならではの新しい体験価値を提供すべく、「格ゲーでありながら、格ゲーとしてだけでは売らない」という点を意識するようになりました。要するに格闘ゲームをプレーして楽しいという点だけでなく、グラフィックやCGムービーに力を入れ、ストーリーやミニゲーム要素など1人プレーを前提としたモードを充実させることです。

 また、登場するキャラクターにナラティブなバックグラウンドを持たせ、CGアニメーション映画などの映像化という、その他の楽しめる接点を多く導入しました。

 こうした施策により、日本のみならず、海外でも多くのファンから愛されるコンテンツとなったという訳です。

――各地域でのプロモーションも積極的に行っているとのことですが、それが成功につながる理由は何でしょうか?

 各地域の市場や文化に合わせたプロモーションが重要です。「鉄拳8」と「NIKE」のコラボとして、「一八」&「仁」モデルのスニーカーがゲーム内に登場するなど、独自のマーケティングを実施しています。

 ダウンロードの販売が多い地域もあれば、パッケージで販売したほうが売れるエリアもあります。その地域ごとに最適な方法を見つけることで、大規模なプロモーションでも効果的に進めることができています。

 また、各地域の特徴を反映したキャラクターを投入することも成功の鍵となっています。他にも、早期に海外人材を獲得し世界各言語へのローカライズを行いました。ちなみに、鉄拳8は15言語に対応しています。

――eスポーツなど新しい分野にも注力されているとおっしゃっていましたが、どのような取り組みをされているのでしょうか?

 特に鉄拳シリーズではeスポーツの大会を積極的に開催し、国際的なファン層も広がっています。eスポーツ市場の拡大に合わせワールドツアーを主催し、世界各地で開催される1000以上の大会を支援しています。

 また、アメリカのラスベガスで開催される世界最大規模の格闘ゲーム大会「Evolution Championship Series」(EVO)にも参加しており、2024年7月のEVO2024でもメイン種目に選出されました。

鉄拳、アイドルマスター…バンダイナムコの成長を支えている長寿シリーズの誕生秘話TEKKEN™8 & ©Bandai Namco Entertainment Inc.

 他にもYouTubeなどの配信を通じて新しい楽しみ方を提供しています。eスポーツは今後さらに注目される分野であり、若年層から高齢者まで幅広い世代に支持されています。

 視聴者や観戦者、大会主催者や協賛者といった「ゲーム非購入のユーザー」を獲得し、IPの経済圏を拡大させているのが特徴です。