夏祭りで発生した前代未聞の惨劇
林眞須美死刑囚の息子が送った壮絶な人生

「和歌山毒物カレー事件」は冤罪なのか?カメラがとらえた“杜撰な捜査”の実態若い頃の眞須美と健治 (C)2024digTV

 改めて、事件を振り返る。1998年7月25日、和歌山市園部で行われた夏祭りで、住民たちが調理したカレーに猛毒のヒ素が混入され、67人がヒ素中毒を発症。小学生と高校生を含む4人が亡くなった。和歌山県警はカレーへのヒ素混入による殺人と殺人未遂容疑で、林眞須美を逮捕した。

 1999年5月、初公判で林眞須美は過去の保険金詐欺は認めたものの、カレー事件をはじめとするヒ素関連事件については否認。二審からは無実を訴えたが、2009年5月に、最高裁で死刑が確定した。24年2月5日、弁護団が3回目の再審請求を和歌山地裁に申し立てた。
 
 二村監督が和歌山カレー事件に興味を持ったきっかけは、19年9月にライブハウス「新宿ロフトプラスワン」で行われたトークイベントだった。当時、林眞須美死刑囚の長男名義で出版された『もう逃げない。~いままで黙っていた「家族」のこと~』(19年)を出版した浩次が登場し、死刑囚の息子として送ってきた壮絶な人生を語った。

 そこで二村監督は、初めて林眞須美に冤罪の可能性があることを知る。トークイベントには、テレビ局のドキュメンタリーの取材班も撮影に入っており、ディレクターは、番組で冤罪についても掘り下げると話していた。

「冤罪をどのような切り口で、どう検証するのか楽しみにしていましたが、ツイッターで『放送がなくなった』という浩次の投稿を目にしました」

 その理由を聞くために、浩次にコンタクトを取った。「局の方針で、死刑判決が確定している事件について、現時点で冤罪の可能性を取り上げる番組は放送できない。再審が始まれば話は変わるかもしれない」。そう上からストップがかかったというのだ。「この事件をちゃんと検証したい」。二村監督は浩次氏への取材を依頼し、「和歌山カレー事件」の取材を始めた。

 だが、「冤罪の可能性を取り上げる番組は放送できない」という言葉は、後に二村監督にも返ってくる。YouTubeチャンネルでの配信を念頭に取材を始め、ある程度素材がそろった際、「テレビ番組にできないか」と各局に打診したが、どこも同じ反応だったという。そこで、さまざまなドキュメンタリー映画の製作・配給を手掛ける東風に話を持ちかけ、8月3日に映画の公開が決まった。