親子というより親友
夫・林健治と息子の独特な関係

 二村監督は、判決文から供述調書を含む、できる限りの資料に目を通し、警察、検察、裁判官、地域住人やメディア関係者など、事件に関わる人たちへの取材を試みた。

 この映画の最も重要な登場人物は、浩次と林眞須美の夫・林健治だろう。驚くべきは、父子の仲の良さだ。

「和歌山毒物カレー事件」は冤罪なのか?カメラがとらえた“杜撰な捜査”の実態林眞須美の面会に向かう浩次(左)と健治 (C)2024digTV

「親子と言うよりも親友に近いような関係という印象です。浩次さんも仲の良い友だちはいるものの、身を隠して生きているので素性を明かせる立場ではありません。この事件について話せるのは健治さんだけで、健治さんにも浩次さんしかいない。僕もすごく面白い独特の関係だと思っていました」

 「ただ、浩次の父親に対するリスペクトは感じ取れなかった」と二村監督に伝えると、「浩次さんには複雑な思いがあったのではないか」と言い、こう続けた。

「浩次さんと健治さんは、事件後、ずっと一緒に闘ってきた同志でもある。いろいろあった末、今の関係に落ち着いた、というのが現状でしょう」

 さらに驚かされるのが、保険金詐欺の手口から検察官とのやりとりまで、何でもあけすけに話す健治の“天然キャラ”である。「飲食物にヒ素を入れ、体調不良をわざと起こして保険金詐欺を繰り返した」と言う健治は、妻と共謀で保険金詐欺を働いたとして逮捕され、懲役6年の実刑判決を受けた。

 この映画のハイライトとも言える緊張感あふれるシーンが、父子である男性を訪れるシーンだ。林家に居候し、約2年間で13回もヒ素や睡眠薬を飲まされた被害者とされている男性だ。健治は彼について「あること」を打ち明ける。

 二村監督は、「それは健治さん“だけの”ストーリーだと思っていましたが、あのような(父子と)男性との関係性を見て、真実味を持って捉えられるようになりました」と明かす。