能登地震で倒壊したお寺(石川県輪島市)能登地震で倒壊したお寺(石川県輪島市)。震災から半年以上が経過しても撤去作業が始まってもいなかった。2024年7月20日に筆者撮影

文化庁関係者によると、能登半島地震の被災地で「何かお困り事ありませんか」と声をかけて近づいてくる「怪しい訪問者」が出没しているという。「訪問者」の正体とは――?(イトモス研究所所長 小倉健一)

文化庁関係者が危惧
被災地に出没する「怪しい訪問者」

「1月1日の能登半島地震からしばらくして、先行きの見えない能登のお寺に怪しげな訪問者が来るようになったようだ」

 こうため息を漏らすのは、宗教法人を管轄する文化庁の関係者だ。

「『何かお困り事がありませんか』と最初はそんな形で地震被害の手助けをして、頃合いを見計らって、『宗教法人を宗派から離脱の上、譲ってもらえないか、法人格の売買ではなく、退職金をお支払いしたい』、そんなことを持ちかけられたそうだ」

 私たちの身の回りにあるような小さなお寺は、一つ一つが宗教法人格を持っているケースがある。それらの宗教法人は、「宗派」と呼ばれる包括宗教法人の傘下にある。宗派とは、例えば、真宗大谷派や臨済宗、曹洞宗、日蓮宗などを指す。企業で言えば、お寺は事業会社、宗派はホールディングスというとわかりやすいだろうか。

 お寺と宗派の関係は、宗派ごとに違うが、人事や名義変更には宗派の許可が必要であるケースが多い。なので自分たちが自由に運営できるように「宗派離脱」の上で、乗っ取りを企んだようだ。上記のケースでは、乗っ取りは結局成就しなかったものの、過去には、乗っ取られてしまったお寺は多い。

3000万円の退職金のはずが
泣き寝入り

「『法人格の売買ではなく、退職金を支払いたい』という申し出も、住職にとっては危険な話です。過去には、3000万円の退職金を払うという約束だったのに、業者は100万円しか支払わず、その後月に1万円だけを振り込むようにして、住職が泣き寝入りしたケースもある」(同関係者)

 宗教法人は、宗教施設に固定資産税が課されず、法人税もかからない。さい銭やお布施などの収入も非課税だ。ただし、有料の駐車場や不動産販売業、旅館業などの収益事業を営む場合は課税対象(軽減税率が適用)になる。例えばだが、自分たちの事業を「宗教行事」と位置付けることが可能なのであれば、税金が安くなるというわけだ。

 そんな宗教法人をよこしまな考えで自分で運営しようという不貞な輩(やから)がいるようだ。