横浜市の旧大口病院(現横浜はじめ病院、休診中)で2016年、入院患者3人の点滴バッグに消毒液を注入して中毒死させたとして、3件の殺人罪と5件の殺人予備罪に問われ、一審横浜地裁で無期懲役の判決を受けた元看護師久保木愛弓被告(37)の控訴審判決が19日、東京高裁で言い渡される。2009年の裁判員制度の導入から一審の死刑判決が破棄されたケースは8例あるが、逆に一審の無期懲役の判決が覆り死刑判決が言い渡された例はない。今回、死刑判決が出れば初のケースとなる。(事件ジャーナリスト 戸田一法)
「更生の可能性」を
考慮し極刑回避
一審判決によると被告は16年9月、入院していた興津朝江さん=当時(78)、西川惣蔵さん=同(88)、八巻信雄さん=同(88)=の点滴バッグに消毒液「ヂアミトール」を混入し殺害したほか、点滴袋5個に消毒液を入れた。
被告は21年10月の初公判で「すべて間違いありません」と起訴内容を認め、弁護側も事実関係は争わない姿勢を示した。争点は弁護側が主張する統合失調症による心神耗弱状態が刑事責任能力について問えるかどうかと、量刑だった。
検察側は動機について、16年3月に患者が死亡した際、遺族から「この看護師が殺した」と罵倒される出来事があり、さらに同4月には別の患者の遺族が医師と看護師を責めている場面を目撃。
そのため、担当する患者が自分の勤務中に死亡すれば同じように非難されると不安を募らせ、同7月ごろから勤務時間外に患者が死亡するよう、投与予定の点滴バッグに消毒液を注入していたと指摘し、死刑を求刑していた。
弁護側は被告が遺族から罵倒された出来事の後、ショックで過食や不眠に悩まされ、事件発覚後は心的外傷後ストレス障害(PTSD)と診断されたと主張し、死刑回避を訴えていた。
21年11月の一審判決は、被告が自閉スペクトラム症の特性があり、事件当時はうつ状態だったとしたが、完全責任能力を認めた上で「看護師の知見と立場を利用し、計画性も認められ悪質。動機も身勝手極まりない」と指弾。
その上で「更生の可能性が認められる」「生涯を掛けて償ってほしい」として無期懲役の判決を言い渡し、検察側と弁護側の双方が控訴していた。