伊藤忠 三菱・三井超えの試練#1Photo:JIJI

伊藤忠商事の岡藤正広現会長が社長に就任した2010年度以降、同社は期初に掲げた利益目標を着々とクリアし、その達成・未達成の実績は13勝1敗を誇る。純利益で、財閥系の三菱商事、三井物産を上回り、総合商社でトップに立ったこともあった。ただ、恒常的にトップの座を占めるには、もう一段の経営改革が必要だ。特集『伊藤忠 三菱・三井超えの試練』の#1では、利益水準を8000億円から1兆円近くに引き上げようとしている伊藤忠の死角に迫った。(ダイヤモンド編集部 猪股修平)

「万年4位」を脱した伊藤忠は
有言実行の手堅い経営に転換

 伊藤忠商事にとって「万年4位」は屈辱的な言葉だった。伝統的に資源ビジネスに強い三菱商事、三井物産、住友商事といった財閥系商社の後塵を拝する、非資源商社というイメージが、伊藤忠には付いて回っていた。

 だが、岡藤正広現会長が社長に就任した2010年度以降、風向きが変わる。利益を“稼ぐ”、無駄を“削る”、損を“防ぐ”の頭文字を取った「か・け・ふ」を合言葉にリスクを軽減し、赤字事業にメスを入れた。消費者ニーズを起点に事業を構築するマーケットインの発想で改革を進めた。15年度決算で純利益首位、そして20年度期決算で、ついに総合商社業界で純利益、株価、株式時価総額トップの「三冠」を達成した。

 ただ、岡藤氏自身は「不戦勝」「喜ぶのは三冠達成が確定した1日だけ」と冷静に受け止めた。事実、いずれの年度も資源価格暴落により財閥系商社が巨額の損失を出した。自力というより、敵失による首位浮上だったことが背景にあった。

 とはいえ、岡藤氏の社長就任後、14回あった決算期のうち、わずか1期を除いて、伊藤忠が期初目標をクリアし続けてきたのは、稼ぐ力を着実に高めてきた証左である。

 次ページでは、伊藤忠の底力の源、再び三菱、三井を追い抜くための条件を明らかにする。