「この鑑定が死刑判決の決め手となってしまったのか」という驚きと恐ろしさを感じるが、目撃証言も負けていない。映画では、ガレージでカレー鍋の前に“一人で”いた「林のおばちゃんが不審な行動をしていた」という女子高生の証言を、イメージ映像などを用い検証。その曖昧さと危うさを提示する。

 なお、浩次は、姉(次女)がガレージで雑談しているところを見たと話す。しかし、「家族をかばう証言で信ぴょう性がない」と判断され、裁判では浩次と次女の証言は採用されなかった。

 二村監督は、「もう一人、当時メディアで話題になった“目撃者”も十代半ばでした。重要な証言を担っているのが未成年です。これはあくまで想像ですが、供述操作しやすい相手だったのではないかと。女子高生の目撃した場所が、ガレージの様子を確認できない自宅1階のリビングの窓から、2階寝室の窓に裁判の途中で調書が書き換えられるなど、明らかに検察の意図が働いていると考えられます」

「保険金詐欺をやっていたから
あの女に間違いない」という前提の捜査

「和歌山毒物カレー事件」は冤罪なのか?カメラがとらえた“杜撰な捜査”の実態林眞須美から浩次への手紙。浩次は眞須美のことを「マミー」と呼ぶ (C)2024digTV

 映画を完成させた今、冤罪の可能性についてどう思うか?

 監督は、「保険金詐欺をやっていたから、あの女に間違いないという前提で捜査が進んでいた」と指摘する。

 事件当時、和歌山県警本部長だった米田壮(よねだ・つよし)氏は、『河北新報』のインタビューで事件を振り返り、「保険金詐欺で間違いない。ヒ素と保険金詐欺と林を繋ぐ証拠を取ってこいと宿題を出した」といった発言をしていたという。

「証拠が見つかったから林眞須美が犯人だ、ではなく、林眞須美が犯人に違いないから、それに合う証拠を探して来い、という捜査の指令を出して、『ほら出たじゃないか』と得意げに語っていました。前提も間違っているし、そもそも見込み捜査という点でもおかしいですよね」