生き物たちは、驚くほど人間に似ている。ネズミは水に濡れた仲間を助けるために出かけるし、アリは女王のためには自爆をいとわないし、ゾウは亡くなった家族の死を悼む。あまりよくない面でいえば、バッタは危機的な飢餓状況になると仲間…といったように、どこか私たちの姿をみているようだ。
ウォール・ストリート・ジャーナル、ガーディアン、サンデータイムズ、各紙で絶賛されているのが『動物のひみつ』(アシュリー・ウォード著、夏目大訳)だ。シドニー大学の「動物行動学」の教授でアフリカから南極まで世界中を旅する著者が、動物たちのさまざまな生態とその背景にある「社会性」に迫りながら、彼らの知られざる行動、自然の偉大な驚異の数々を紹介する。「オキアミからチンパンジーまで動物たちの多彩で不思議な社会から人間社会の本質を照射する。はっとする発見が随所にある」山極壽一氏(霊長類学者・人類学者)、「アリ、ミツバチ、ゴキブリ(!)から鳥、哺乳類まで、生き物の社会性が活き活きと語られてめちゃくちゃ面白い。……が、人間社会も同じだと気づいてちょっと怖くなる」橘玲氏(作家)と絶賛されている。今回は、SNSで本書を取り上げた投稿が大きな反響を呼んだ大手予備校の人気英語講師田中健一氏にその経緯や反響、本書の楽しみ方についてインタビューした。(ダイヤモンド社書籍編集局 初出:2024年5月25日)
バズった投稿
――(編集担当)田中先生は大手予備校の英語科講師ですけど、最近はX(旧Twitter)(アカウント:@TNK_KNCH)で英語以外の本の紹介がバズっていますね。
田中健一氏(以下、田中) そうなんですよ。物理や化学、世界史や哲学の本を紹介したのが広く拡散されました。欲を言えば自著の紹介も同じくらいバズってくれるといいのですが。
――そして今回は『動物のひみつ』を紹介していただきありがとうございました。
田中 この本はすごいですよね。いや、本当に。最初に手に取ったとき、分厚さから直感的に『4千円くらいかな?』って思ったんですけど、まさかの2千円(本体価格)で『えっ? 安っ!』と声が出てしまいました。
それをTwitterに、私は頑なにXとは呼びませんが、「この本、むっちゃ面白いから毎日気晴らしに少しずつ読んでるんだけど、一番驚くのが700ページ超で本体2000円。今の時代にこれは価格破壊なのでは?」(https://x.com/TNK_KNCH/status/1782332086785044497)と投稿したところ皆さんに拡散していただけました。
いま私は学習参考書の新刊原稿に追われているのですが、その休憩というか息抜きに読ませてもらっています。
娘に読み聞かせる
目次をパッと見てそのとき気になったところを読むスタイルです。例えば先ほどは第8章の『シャチの高度な戦略』を読んでいました。地元の名古屋グランパスを応援しているからです(grampusは英語で「シャチ」)。
そうそう、今年2歳になる娘がこの本の表紙を気に入ったみたいで『よむ!よむ!』とせがんできます。娘はアリが好きなようで,公園でアリを見つけては『ありしゃん!ありしゃん!』とはしゃぎ、最後は『ばいばーい!』と手を振っています。
第2章にはグンタイアリに関するさまざまな記述があって、公園でのほのぼのシーンとは程遠いのですが、娘に読み聞かせをしました。絵本とはリズムが違う文章が面白かったのか、その後も何度も『よむ!よむ!』攻撃が来るので、そういうときはパッと開いたところを一緒に読んでいます。
読書好きな人になってほしいので何かを読んで欲しがっているときはどれだけ忙しくても対応するようにしています。
神妙な顔つきで聞き入っていることもあれば、すぐに走り去ってしまうこともあります。
ペットを欲しがったゴリラ
娘と読むために適当に開いて読んだ中で特に印象的だったのは、第9章『罪を猫になすりつけたゴリラ』です。
人間と手話でコミュニケーションを取れるココという名前のゴリラの話で、ぬいぐるみでは満足できずにペットをほしがったというのがまず驚きでした。その子を大切に可愛がっていたのに、ある日、部屋の流し台を壊してしまったことをトレーナーに叱責されたら『猫がやった』と手話で回答した、そんなお話です。
原著と読み比べる楽しみ
――最初から順番に読んでいくのではなく、ランダムに読んでいるのですね。
田中 ですね。700ページ以上ある本を通読しようと思ったら大変ですから、つまみ食いするように読んでいます。どのエピソードも短くまとまっていて、これだったら仕事や育児の合間に少しずつ楽しむことができます。どの話も『ええっ?』『マジで?』『えぐい……』と語彙力を失う面白さがあります。
ところで、私は『世界が広がる英文読解』(岩波ジュニア新書)にも書いたのですが、翻訳書とその原書を読み比べるのが好きで……
――え、それは面白い試みですね。
田中 はい。日本語と英語のちがいを知ることができて面白いですし、翻訳者さんの賢さというか、技術に触れて勉強になるので実践しています。
あとは、純粋に暇つぶしにもなります。それで『動物のひみつ』の原書も買ってみたんですけど、ひとつ気になることがあるので伺ってもいいですか?
――はい、なんでしょうか。
田中 日本語版の目次には詳細な小見出しがあるのですが、英語版にはありませんよね? これって日本語版のオリジナルですか?
――そうです。翻訳版のオリジナルです。
田中 いやあ、これは大発明というか、素晴らしいお仕事ですよ。これのおかげで私がやっているような『つまみ食い』的な読書ができているわけですから。
本当に、このオリジナル要素には拍手喝采、万歳三唱ですよ!
最初に触れた価格もそうですし、ページ数の割には軽くて開きやすいところなど、編集者さんをはじめ本の製作に関わっているすべての人がそれぞれの持ち場でファインプレーを連発して完成した、そんな作品だと思います。
大手予備校英語科講師
1976年愛知県生まれ。愛知県立明和高等学校、大阪大学文学部(西洋史)卒業。名古屋大学文学部(言語学)中退。著書に『世界が広がる英文読解』『英文法基礎10題ドリル』などがある。近年ではX(旧Twitter)やnoteで英語を中心に幅広く勉強に関するコンテンツを提供している。
X: https://x.com/TNK_KNCH
note: https://note.com/tnk_knch/
(本原稿は、アシュリー・ウォード著『動物のひみつ』〈夏目大訳〉に関連した書き下ろし記事です)