演技はまだまだ未熟だから、せめて立ち姿だけでも将軍らしくありたいと思って、撮影期間は家の中でも和服で過ごした。衣装に合わせてその世界を表現するのは、私の得意分野だ。将軍の打掛を着て「御鈴廊下」を歩いたとき、ここは私のランウェイだなぁと思った。

 撮影の途中、ベテランの結い方さん(時代劇のヘアメイクをしてくださるスタッフ)に「こんなにうまく馬を乗りこなせる女優さんを久々に見ました」と言っていただいた。うれしかった。ここまでの準備は無駄ではなかったと、改めて思った。

 とても難しい役だったけれど、共演した俳優のみなさんや監督をはじめとするスタッフの方々のおかげでなんとかやりとげることができた。SNSでも原作ファンに「冨永愛は吉宗にぴったり」と言ってもらえたのはうれしかったし、ほっとひと安心できた。おかげさまでいろいろな機会に評価をいただいた。

 代表作と言える役に巡り合えたその始まりは、夢を口にしたから。そしてその準備をしてきたから。それがなかったら運も巡ってこなかったと、私は思う。

俳優『冨永愛』は
どのようにして生まれたのか

 実を言えば、俳優の仕事は20代の頃からちょこちょこやっていた。でも私は、あくまで自分をモデルだと思っていた。たまにドラマに出演することがあっても、自分を俳優だとは思えなかったし、そう思うことがおこがましいと感じていた。ましてや、そこで評価を得られるなんて想像していなかった。

 私の意識が大きく変わったのは、2019年のドラマ『グランメゾン東京』だった。地上波ドラマの経験はなかったから、オファーがきたときは心底驚いた。

 のちに、もっと驚くべきことを知る。私が演じるリンダ・真知子・リシャールというジャーナリストの役は、キャスティングが難航したらしい。そんななか、「彼女なら、座っているだけで国際的なジャーナリストに見えると思う」と木村拓哉さんが言ってくださったと聞いた。こんな運命があるのかと心が震えた。

 しかもキャストはとんでもなく豪華だ。木村拓哉さん、鈴木京香さんをはじめとする確固たるキャリアも人気もある方々ばかりがズラリ。そこに突然、冨永愛。そのときの心境はただひと言、「やばい…」。