現場では改めて、自分がド新人だと実感した。だからこそ本気でがんばろうと決めた。いままでだって本気だったけれど、本気のレベルを変える必要がある。撮影と並行して、演技レッスンにも通い続けた。

 演技レッスンは過去にも受けたが、37歳の本気のレッスンはいままでとは違った。縁があって出会ったキム・ジンチョル先生のレッスンを受ければ受けるほど、その意図が腑に落ちていった。

37歳の新人俳優が気づいたこと
「演技っておもしろい」

 たとえば悲しい演技をするとき「悲しい感情を演じよう」と思っても、感情に入り込めないこともある。そんなときは身体行動から感情を動かすことが大事だと教えてもらった。いきなり悲しい感情をつくることはできなくても、ずっとうつむいて、頭を抱えていたら、いやでも気持ちは暗くなっていく。胸がしめつけられ、涙さえ出てくる。その段階に体をもっていって初めて、感情を動かす演技ができる、という演技の方法だった。

 演じる役の生い立ちを知り、どんな人に囲まれて生きてきたかを考えることも重要だ。どんなふうに笑うのか、コーヒーを飲むとき、どうカップを持つのか、行動を積み重ねていくことで、人物像が浮かび上がってくる。

 演技っておもしろい。そう気づいた37歳の「デビュー」だった。

 とはいえ、どんなに準備を重ねても、うまくいかないことはたくさんある。みなさんの演技は完璧なのに、私のNGで「やり直し」になると申し訳ない気持ちになるし、悔しい。それでも、映画「世界の終わりから」に出演したとき、紀里谷和明監督に「間違えることに臆病になるよりも、思いっきりやってみて。失敗を恐れなくていい」と言っていただいた。

 安心した。どんな世界でもそれは同じ。失敗を恐れてビクビクしていても、よいものはできない。本番になったら、自分ができる最大限のことをする。それは俳優でもモデルでも同じだ。結果、「冨永さんは、度胸あるねえ」とほめていただいた。

 そんな「俳優・冨永愛」の生みの親でもある『グランメゾン東京』が、2024年冬にスペシャルドラマとして帰ってくる。この本を執筆中の現在、撮影を進めているところだ。あれから5年、私たちがどう成長したのかも見てほしい。