「えっ!どうしてですか?」
「ウチの会社はね、各人が自分の有休(年次有給休暇)を使って夏休みを取るんだよ。A君は今年の4月1日入社だから、10月1日にならないと有休が発生しない。だから君の夏休みはないってわけ」
「そんな……もう仲間たちと北海道でスープカレーを食べ歩く約束をして、すでに飛行機のチケットや宿を取ってしまいました。どうにかなりませんか?」
「そうか……8月の下旬は仕事が暇な時期だから休んでもいいけど、欠勤扱いになるから、その分給料は減っちゃうよ」

人事部長の回答も「今年は君の夏休みはない」だった

「夏休みは欲しいけど、給料が減るのは嫌だ。何かいい方法はないかな……。そうだ、C部長にも聞いてみよう。もしかしたらB課長の答えは間違いかもしれないし」

 夏休みをあきらめきれないAは、総務課のフロアへ行き、C部長に夏休みの件を確認したが、C部長の回答もB課長と同じだった。

「自分が企画して手配したツアーだから、幹事の俺が参加できないとなれば、旅行は中止するしかない。みんな楽しみにしてるのに……。マジ困ったわ」

 がっかりしたAは、うつむいたまま部屋を出ようとしたところ、入室しようとしたD社労士に激しくぶつかり、尻もちをつきながら床に倒れた。

「大丈夫ですか?」

 D社労士はAに手を差し伸べたが、Aはその手をつかむことなく黙って起き上がり、一礼するとそのまま部屋を後にした。C部長があわててD社労士の側に駆け寄った。

「Dさん、ケガしませんでしたか?」
「私は何ともありません。しかしぶつかった社員さん、とても深刻そうな様子でしたね」
「夏休みの件で、会社の方針と彼の考えに行き違いがありまして……。Dさんには別の件で相談があったので来てもらいましたが、今の件で話をする時間、ありますか?」