毎日30分あるいは週150分の
有酸素運動が血管を軟らかくする

 引き続き、動脈硬化の予防についてお話しします。

 心臓から送り出される血液を全身に行き渡らせる役割を担うのが動脈です。その動脈が硬くなって柔軟性が失われた状態を「動脈硬化」といいますが、動脈硬化が続くと、狭心症、心筋梗塞、大動脈解離、大動脈弁狭窄症といった心臓疾患をはじめ、脳梗塞や脳出血といった病気の大きなリスク因子になります。しかも、現時点では動脈硬化そのものを治す治療は存在しないので、予防が何より大切なのです。

 しっかり予防するためには、食事や薬による脂質管理(コレステロールの管理)に加え、運動がとても重要です。運動によって、なぜ動脈硬化が改善するのかについてのメカニズムはまだはっきりわかってはいませんが、運動で血流量が増えると、もっとも内側にある血管内皮細胞に「ずり応力」という物理的刺激が加わり、血管を軟らかくする作用がある一酸化窒素が増えるためだと考えられています。

 いずれにせよ、とくに有酸素運動が動脈硬化の予防に有効であることは数々の研究で明らかになっていて、2022年7月に改訂された日本動脈硬化学会の「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版」でも、それらの研究に基づいた運動療法の指針が示されています。

 それによると、ウォーキング、速足、水泳、エアロビクス、スロージョギング、サイクリングなどの有酸素運動を、「ややきつい」くらいの強度で、毎日30分あるいは週150分を目標に週3回は実施することが推奨されています。もちろん、持病がある場合は医師の指導に従うことが大前提です。

 また、有酸素運動以外の時間もこまめに歩くなど、できるだけ座ったままの生活を避けることも推奨しています。座位時間が長いと、心血管疾患や冠動脈疾患、脳卒中、糖尿病の発症が増え、心血管疾患による死亡や総死亡も増えるという多数の研究報告があるのです。

 座位時間を長時間継続せずに中断すると、血糖値やインスリン抵抗性が改善することもわかっていて、動脈硬化性疾患の予防が期待できます。ですから、座っている状態をこまめに中断して、長時間続けないように心がけることも大切になります。