広告大手・電通の新入社員が月100時間を超える残業の果てに死を選んだニュースは、世間に衝撃を与えた。仕事でもプライベートでも心身の休まる暇のない、多忙すぎる現代社会に、美輪明宏さんが警鐘を鳴らす。※本稿は、美輪明宏『私の人生論 目に見えるものは見なさんな』(毎日新聞出版)の一部を抜粋・編集したものです。
いくら給料が高くても
命を捧げる価値はない
希望を持って会社に入りわずか数カ月で自ら命を絶ってしまうとは、何と悲しいことでしょうか。言葉も見つかりません。新聞やニュース番組などで尋常ではない社内事情、労働環境が次々と明らかになっていますが、まさにこの会社はブラック企業そのものです。
1日20時間も働かされれば、睡眠時間もありません。社員手帳に「取り組んだら放すな 殺されても放すな」など「鬼十則」と言われる非情な心構えが掲載されていたといいますが、命より大切な仕事などこの世には何ひとつありません。
私はこれらの恐ろしい状況を知り、すぐに戦時中の軍隊を思い浮かべました。上官の命令にはどんな理不尽な要求にも絶対服従。ひと言でも意見をしようものならすかさず鉄拳が飛んでくる。さすがに現代ではそれはないでしょうが、その代わり言葉の暴力はあります。
何事につけ「根性、根性、根性」の精神至上主義をごり押しする前時代的な発想のまま。驚くべきはいまだに大企業の職場でそのようなことが日常茶飯事に行われていたということです。きっと同じようなことをしている会社は他にもあるでしょう。
私は現代人の多忙な働き方を見ているといつもチャールズ・チャプリンの映画「モダン・タイムス」を思い出します。パソコン、スマホをはじめ、さまざまな事務機器やツールが開発されているにもかかわらず、人の労働量は増えるばかり。便利な機械ができれば、本来は人の作業は減るはずなのです。