銃写真はイメージです Photo:PIXTA

イスラム組織「ハマス」のイスラエル襲撃を機に勃発した軍事衝突からほぼ1年から経とうとしている。双方に多くの犠牲者を出しながら戦闘終結への道筋は残念ながら見えていない。この戦闘において、英BBCはハマスを「テロリスト」ではなく「戦闘員」「武装勢力」などと呼んでいる。国際報道で多大な影響力を持つBBCは、なぜ世界中の批判を受けても、「テロリスト」と呼ばないのか?在英ジャーナリストとして長年英国を中心としたメディアの動きを追い続けている小林恭子氏がその背景を解説する。※本稿は、小林恭子『なぜBBCだけが伝えられるのか 民意、戦争、王室からジャニーズまで』(光文社)の一部を抜粋・編集したものです。

ハマスによる「10・7」奇襲を
どの立ち位置で報じればいいのか

 2023年初秋、BBCは論争に巻き込まれた。BBCがこれまでに何度も直面した、紛争報道での立ち位置が俎上に上がった。

 10月7日、パレスチナ自治区であるガザ地区を実効支配するイスラム組織「ハマス」がイスラエルに向けて大量のロケット弾を放ち、イスラエル領内に侵入して襲撃を開始したのである。報復措置としてイスラエルは大規模な空爆を行い、双方の攻撃による死者数は1週間余りで数千人に達した。ハマスはイスラエルの領内から200人を超える人質も拘束した。「これはイスラエルにとっての9・11だ」。イスラエル側が米国で起きた同時多発テロになぞらえて語った言葉である。衝撃の大きさが伝わってくる。

 BBCを含む英国のメディアは、攻撃による破壊や目を覆うような住民への被害を刻々と伝えた。英国では自分の家族や友人・知人がハマスに拘束された、あるいは攻撃されて亡くなったという経験を持つ人が少なくなく、切実さが募った。

 パレスチナは、1948年のイスラエル建国とその後の中東戦争を経て、ヨルダン川西岸地区とガザ地区とに分断されている。イスラエルはガザ地区の領空・領海を支配し、約200万人の住民が実質的占領下にあった。

 今回の紛争では、イスラエルがガザ地区を空爆することを国家の自衛権の行使として支持するのか、あるいはハマスの奇襲攻撃による破壊や殺害に一定の理解を示すのか、あるいは支持しなくても人道上の理由から停戦を求めるのか、どれほどの期間の停戦なのか。国民の意見は千々に分かれた。