「道は二つあります。一つは完全民営化。もう一つは税金です」。NHKの井上樹彦副会長は2023年秋、若手職員を前に臆することなく、NHKの今後の選択肢について、そう強調した。人口減とテレビ離れの加速で、NHKの受信料収入の激減は待ったなし。特集『変局!岐路に立つNHK』(全8回)の#1では、NHK首脳が予見する今後のNHKの絵姿に加え、“生き残り策”を発言内容から明らかにしていく。(ダイヤモンド編集部 下本菜実)
放送法の改正案が閣議決定
スマホでNHK視聴に受信料
東京・渋谷、自然豊かな代々木公園を背にした場所に、その放送局はある。国内唯一の公共放送機関である日本放送協会(NHK)だ。NHKの社員数は1万0343人(2022年3月時点)。日本で最も大きな放送局である。
この巨大組織が今、大きな“転換点”を迎えている。放送法の見直しだ。1950年に制定された放送法は、第64条で「協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、同項の認可を受けた受信契約の条項で定めるところにより、協会と受信契約を締結しなければならない」と定めている。受信設備とはテレビを指し、この条文が受信料徴収の根拠となってきた。
一方、視聴者はスマートフォンやパソコンでNHKのニュースサイトや動画を閲覧しても、受信料は徴収されなかった。ネットコンテンツは「理解増進情報」とされており、テレビ放送を補完するものという位置付けだったためだ。
しかし、政府は3月1日に放送法改正案を閣議決定した。今国会で成立すれば、インターネット活用業務は放送と同格の「必須業務」となる。これにより、NHKはウェブ上での同時配信や見逃し配信、番組情報の発信が義務となる。
その上、NHKの今後を大きく左右しかねない変更が、スマホやパソコンなどでのNHKの視聴に対して受信料が徴収できるようになることだ。ただし、NHKのアプリなどの登録者から受信料を徴収するもので、スマホを保有するだけでは契約義務は生じない。
人口減とテレビ離れの加速で、今後、NHKの受信料収入は先細りしていく可能性が高い。放送法改正案に盛り込まれた“ネット受信料解禁”は、公共放送を支える最後の切り札になり得るのだろうか。
実は、NHKの首脳は現状に楽観的ではないようだ。ダイヤモンド編集部は、NHK首脳が昨秋、若手職員に対して今後のNHKについて語った音声を入手した。発言はプロパー職員のトップである現副会長・井上樹彦氏のものだ。
井上氏は、今後の受信料収入に関して悲観的な見方を示した上で、大胆にも今後NHKが取るべき道を開陳している。そこには「税金」というキーワードも登場する。次ページで、井上氏の発言の全容について明らかにしていく。