「ハマスが主権国家のイスラエルと同等」
そんな報道姿勢は恥ずべきではないか?

 BBCが批判にさらされたのは、英国、日本を含め世界各国の政府が「テロ組織」と定義するハマスを、自らはテロ組織と呼ばないと決めたからだった。「BBCは倫理基準を導入するべきだ」とシャップス国防相(当時)は述べた。「(イスラエルとハマスが)同等の地位にあって、2つの視点があると報道するとは恥ずかしいことではないか」「(ハマスは)無実の人や赤ん坊、年金生活者を殺害した。自由のために闘う戦士ではなく、戦闘員でもない。テロリストだ」。最大野党労働党のキア・スターマー党首(現首相)もBBCを批判した。「私たちが今目撃しているのは、テロであり、ハマスはテロリストだ」。

 BBCは国際報道のベテラン、ジョン・シンプソン記者に、なぜBBCがハマスをテロリストと呼ばないのかをXやニュースサイト上で説明させた。シンプソンによれば、これは開局当時からの伝統による。「『テロリズム』は含みのある言葉だ。倫理面から非難する意味合いが出る。誰を信じるべきかあるいは非難するべきかを視聴者に教えるのは、BBCの仕事ではない」。

 BBCの編集規則によると、「テロリスト」という言葉は状況の「理解を妨げる可能性がある」。視聴者には「結果として何が起きたのかを伝える」ことに主眼を置く。「ほかの人が使った言葉をBBCの言葉として採用しない。私たちの使命は客観的であり続けること、誰が何を誰に対して行ったのかについて視聴者が自分自身で理解するようにさせることだ」。

 実際の放送では、BBCは世界各国の政府がハマスをテロ組織と定義していると説明し、取材対象者や出演者がハマスをテロ組織と呼んだ場合はこれを修正しない。ただ、自分たちの声でハマスをテロ組織とは呼ばない。「テロ組織」という言葉を使わなくても、視聴者はハマスによる破壊の惨状を目にしている。視聴者が自分なりの結論を出すようにする。