世間一般の倫理観や国益を超越して
「不偏不党」をつらぬくBBCへの疑問

 ハマスをテロリストと呼ばないのはBBCばかりではない。ほかの放送局やロイター通信なども「政府がテロリストと定義する『ハマス』」と表現しているが、公共サービス放送最大手で、海外からの信頼度も高いBBCの一挙一動は特に注目されがちで、政治家も批判の矛先を向けやすい。

 国民の心情は大きく揺れた。今回の紛争によって犠牲になった人々の壮絶な光景が茶の間に飛び込んでくる。心を動かされない人はいない。このような時に不偏不党の立ち位置から報道を続けていてよいのだろうか?EU離脱の是非を問う国民投票時のように、中立を維持することで「真実を逃す」ことはないのか?

 その答えや評価は誰に聞くかによって、変わりそうだ。ただ、国際放送BBCワールドサービスも含め、世界中にリスナー及び視聴者を持つBBCは紛争の特定の側に与するのではなく、できうる限り不偏不党の立場から報道を続けてきた歴史を持ち、世界的にも高い評価を受けてきた。国内の主要放送局ITV、チャンネル4、チャンネル5、衛星放送スカイもニュース報道においてはBBCの不偏不党を踏襲してきた。これからもBBCはこの原則を維持し続けるだろう。

 民放畑の経験が長く、放送通信庁オフコムの理事も務めたスチュアート・パービスは「BBCが当初、ハマスを『戦闘員(ミリタント)』と呼んだのは間違いだった」という。10月7日の残虐行為を実行した組織の表現としては似つかわしくないと思ったからだ。しかし、「全体を通してみると、BBCは不偏不党を維持していると思う。評価したい」。