都心南西部の通勤利用者が
他地域に比べて減少するワケ

 通勤利用減少の背景には、テレワーク導入などの就業形態の変化があると考えらえるが、テレワーク実施率にはいくつかの傾向がある。ひとつは地域の偏りだ。2023年に国交省が実施した調査によれば、全国平均が24.8%で近畿圏、中京圏もほとんど変わらないのに対し、首都圏は37.6%ととびぬけて高い。冒頭に東京圏が「コロナ前と比べて最も減少している」と述べたが、これが理由だ。

 雇用者に占めるテレワーカーの割合をみると、情報通信業が70%を超えるのに対し、運輸や卸・小売、宿泊・飲食といった「現場」を持つ業種は20%以下になるなどの業種間の差が大きい。

 企業規模別に見ると就業者1000人以上の企業では約35%だが、300人以上1000人未満では約26%、100人未満では約15%まで減少する。また厚生労働省の調査によれば、テレワーク実施率は年収が上がることに増加する傾向にあり、年収300万円以上500万円未満では約20%なのに対し、年収1000万円以上では約50%に達する。

 以上を総合すると、東京23区南西部在住者は都心の大企業(特に渋谷付近に多い情報通信業)に管理職や専門技術職として勤務する高所得者が多いため、他地域と比較して通勤形態に顕著な差が生じているとの仮説が浮かび上がる。

 この仮説が真実かどうかは定かではないが、少なくとも今後、路線・区間ごとに利用者の性質やニーズの差異が大きくなることは確かだろう。そうなれば必然的に提供するサービスも差別化されていく。相互直通運転に代表される一体的な運輸サービスが提供されている首都圏で、そのような差別化戦略がどこまで成り立つのかもふくめて、今後の展開に注目したい。