スピードウェイ買収にも“死角”があった
「独禁法」とガソリンがキーワード

 今回のクシュタールのセブン&アイへの買収提案は、突然出てきたものではない。その背景には、米国の激しいコンビニ再編があり、特に20年以降は熾烈な戦いが現在進行中である。大手チェーン同士の合併から、地域密着型の売買(所有者変更)まで、M&Aの種類や規模はさまざまである。ほとんどが非公開で行われているため正確に数を把握することは難しいが、専門誌や現地報道によると、21年には少なくとも数千の店舗の所有者変更が行われたことは確かである。

 そうした戦国時代の火ぶたを切ったのが、まさにセブンによるスピードウェイ買収だった。米国の36州にある3600店舗を、約210億ドルで買収したコンビニ業界最大の買収である。セブンはこれにより、米国の50の大都市のうち47都市に店舗を構えることを達成した。なお、クシュタールもこの買収合戦に絡んでいたといわれているのは前述の通りだ。

 しかし、セブンのM&Aにも“死角”はあった。買収はできたものの、米連邦取引委員会の反トラスト法(独占禁止法)違反の懸念に応えて、このうち293店舗を3社に売却せざるを得なかったのだ。この3社とは、先に紹介した米コンビニ店舗数ランキングで27位のCross America、26位のJackson Food、18位のAnabi Oilという、中堅企業3社であった。

 なぜ、コンビニのM&Aに独禁法の裁定が入るのか。その答えが、ガソリンなのだ。何しろ、米国で販売されるガソリンの約80%がコンビニで販売されている。国民生活に欠かせない消費財であるガソリンは、市場の中で一定以上のシェアを持つことが競争条件を歪める危険があることから、反トラスト法違反となり、市場シェア次第では店舗を売却してシェアを下げなければならない。

 最後に、勘の良い読者なら、なぜコンビニ店舗数ランキングのタイトルが「Top 202 Convenience Stores 2024」なのだろうと思われるかもしれない。先ほども少し触れたが、米国のコンビニは寡占化とは正反対で、上位202社の合計店舗数でもシェアは約36%に過ぎない。

 今回のディールは1位と2位の巨大チェーンのM&Aであり、実現すればコンビニ業界の大変質につながるだろう。が、ゲットゴーの事例で述べたように、米国で成功するコンビニの条件とは店舗数の多さだけでなく、地域に根差したコミュニティストアであり、ガソリンもキーワードになることを忘れてはならない。

 さて、ここまでは、いわば基礎編だ。記事の後編では、北米コンビニ市場でデジタル・トランスフォーメーション(DX)が起こす、ある異変について最新事情を伝える。クシュタールが置かれている状況を理解すれば、「M&A攻撃は最大の防御」になることが理解できるはずだ。

>>後編『セブンとカナダ企業の「合併」は意外と都合が良い?米コンビニM&Aが活発な三大要因』へ続きます。