どうにもエロがとまらない!

五郎 クールベは売れっ子だったので、サロンに出品して国に買い取ってもらわなくても全然オッケーだった。実際、この個展もお客さんがけっこう入ったんです。さっきも言ったように動物の絵も人気があったし、エロもおかまいなしにガンガン描いてたから。

アシ ヤバいですね……。

五郎 この人のエロは、春画といってもいいくらいヤバくて、YouTubeではグーグルのAIに引っかかってBANされちゃうかもしれないから自主規制をかけたけど、この連載でも見送ります。本には全部出しているので、見たい人は本を見てください。なかでも、いちばんヤバいのが『世界の起源』という有名な作品。女性の下半身、しかもローアングルから見た下半身だけの、どアップなんですよ。

アシ まさに、どアップ(笑)。

五郎 笑ってるけど、これ、のちに多くのアーティストにインスピレーションを与えた作品なんだよ。たとえば、マルセル・デュシャンの通称『遺作』と呼ばれるオブジェ作品。扉にある2つの穴から中を覗くと、顔を隠された裸の女の人の下半身が見えるしかけになっています。あと、金沢21世紀美術館には、アニッシュ・カプーアという人の『世界の起源』という同名の作品が展示されている。大きな部屋の中に、黒い楕円が1個、ポーンってあるだけなんだけど。クールベの『世界の起源』のオマージュだと知らないと、意味がわからない作品なんだよ。

アシ どっちも著作権の問題でここに載せられないのが残念!

五郎 ネットで検索すると見つかるから、気になる人はぜひ見てみて。

フランス最高勲章をも拒否した反逆児

五郎 一方、お堅いサロンでも非常に高く評価されたのが、海の絵なんだよね。たとえば、これはフランスの北にあるエトルタ海岸。このアーチ状の変わった岩で有名なところです。アルセーヌ・ルパンという有名な怪盗を主人公にした物語があって、そのうちの1冊『奇巌城』という作品は、ここが舞台になっているんだけど。

クールベ『嵐の後のエトルタの断崖』

五郎 あと、波だけを描いたシリーズも人気で、多くの作品が残されています。

クールベ『波』

アシ エロとはだいぶ路線が違いますね。

五郎 だから、サロンでも評価されたんです。それで、1870年には国からレジオン・ドヌール勲章を授与されることになったんだけど、クールベはどうしたと思う?

アシ 「いらない」って蹴った?

五郎 そうなんだよ!

アシ ハハハハハ(笑)。

五郎 クールベがすごいのは、ただ「いらない」と言うだけじゃ気が済まず、なぜ勲章をいらないか、それを授与することがいかにくだらないかを、わざわざ意見広告にして新聞に載せたところなんだよね。

アシ ホント、期待を裏切らない人ですね(笑)。