地震大国で自宅を持つなら
絶対に注目すべき指標とは

 ただ、建物の被害規模を知るには何かしらの数値化が必要で、その方法はある。

 不動産はJリート(日本版不動産投資信託)を通じて証券化(株化)されており、レジデンス(住宅)も投資対象になっている。リートでは物件購入に際して、投資家からエンジニアリングレポートという建物に対する調査報告書を求められる。その中でPML値というデータは地震の際の損失率を指す。正確な定義は、475年に一度起こるとされる大地震(=50年間に起こる可能性が10%の大地震)が発生した場合の予想最大損失率だ。計算式は、PML値(%)=(被害総額÷建物の再調達価格)×100 となる。

 つまり「0%は被害なし、100%は全損」と分かりやすい。通常、REITはPML値が高くても15%以下の物件のみを取得対象とする。建物価格が10億円の場合、10%なら1億円で元通りということだ。基本的に、リートは地震に弱い旧耐震物件は購入対象にしていない。

 このPML値は構造図面などの机上の計算であり、実際の施工状態を反映していないとの批判もある。しかし、一般の人が構造を理解する方法は数値でしかない。その数値を知った上でどう判断するかは、個人の自由だ。自分が生きている間に大地震が直撃しなければ問題ないので、その確率は低いと見ることもできる。

 日本では大地震があるごとに、自宅で亡くなる方が多い。2024年の元日に起きた能登半島地震の死者は、1月31日時点で238人、そのうち窒息・圧死が141人で63.0%を占めている。阪神淡路大震災の被害は、住家全壊 10万4906 棟、半壊 14万4274 棟で、死者6433人、不明3人、負傷者4万3792人以上。兵庫県医師会によると、阪神淡路大震災における死因は、窒息・圧死が4224人(77.0%)だと言う。自宅に押しつぶされているケースが圧倒的に多いのだ。

 仮に、大地震で住めなくなるタワーマンションが生まれたとしよう。その際に、資産性が高いという「タワーマンション神話」は一旦地に落ちるだろう。その後、構造の安全性をタワー物件ごとに検証し、発表することで、資産価格は再設定されることだろう。耐震構造の弱さのツケはどこかで払うことになる。ただし、それは購入する前に知らなかったという話にならないことを願うばかりである。そのためにも、不動産業者には購入者に対するPML値の提示を義務付けたらどうかと思う。

(スタイルアクト(株)代表取締役/不動産コンサルタント 沖 有人)