「タワマン耐震等級1」に
専門家が恐怖を覚える理由
先日筆者は、神奈川県のタワーマンションの購入を迷っている個人に相談を受けた。その物件の耐震等級は1であり、私は恐怖を覚えた。耐震等級1は最低レベルで、建築基準法をギリギリでクリアする水準でしかない。私が恐怖を覚えた意味合いを説明しておこう。
まず、建物の耐震基準で最も大きな差は、1981年に行なわれた建築基準法改正の前後における差である。この前後で、災害発生時における建物の半壊や全壊の比率は大きく異なり、業界では改正前の基準で建てられた建物を「旧耐震」、改正後のものを「新耐震」と呼ぶ。通常、銀行は旧耐震物件に対して住宅ローンを貸し出さない。大地震で住めなくなる可能性が高い物件は担保価値がないと考えるからだ。
旧耐震では、震度5程度の地震で「倒壊を免れるレベル」を指す。ちなみに、震度5弱は2008年以降で240回以上、震度5強は100回以上起きている。新耐震では、震度5強程度の中規模地震では軽微な損傷、震度6強から7に達する程度の大規模地震でも「倒壊は免れるレベル」を指す。新耐震なら、大地震が起きても一瞬で建物が倒壊し住民が圧死することは避けられる。ちなみに、震度6強の地震は2011年以降、すでに15回を数える。熊本地震は4日間に4回起きている。(気象庁)
ここで注意すべきは、「大規模地震でも倒壊は免れるレベル」という言い回しだ。倒壊はしないが、住み続けることを保証しているわけではない。実際、大地震が起きた被災地では「全壊」や「半壊」は数多く発生する。阪神淡路大震災では約25万戸が全・半壊で住めなくなっている。こうなると、家を解体し、新たな家を建てる必要がある。コストを考えると、新しく丈夫な家を建てるのに数千万円以上かかるに加えて、全半壊した家の解体費用もかかる。既存の家の住宅ローンが残っている上での追加コストとしては重過ぎる。