すでに読者諸氏の中には察しがついている人もいるだろう。グループLINEのメンバーは、このハラからのLINEへの既読、返信が遅ければ、グループLINEから追い出され、新たないじめのターゲットとされることは言うまでもない。

 後でわかったことだが、レン君の場合はその逆だった。ひとりが好きなレン君は、グループLINEといったもののメンバーとなって、日々、誰かとつるむことをよしとしない。

 それでもクラスでは寡黙で大人しいが存在感のあるレン君は、ハラから見て「子分のひとり」として自らのグループへと引き入れたかった。

「LINEはできない」
この一言でいじめが始まった

 ある日の放課後、ハラは下校前のレン君に「グループLINE入れとくぞ」と声をかけた。だがハラにとって思わぬことが起きる。レン君が断ったのだ。

「ごめん。俺、一応、スマホ持ってるけど、これママのだから(LINEとかできない)……」

 後になってわかったことだが、この些細な出来事がいじめへのきっかけだった。そしてそのいじめの段取り、打ち合わせのほとんどは、生徒個々の自宅でLINEを通して行われたというのが、いかにも令和の時代らしい。

 1年生の3学期のある日のこと。ハラが担任教師が職員室に引き上げ、誰も立つ者がいない教卓に立つ。そして大声を張り上げた。

「今日、レンと話したヤツ、挙手!」

 ハラが意気揚々とクラスみんなの前で聞く。手を挙げたひとりの生徒をハラが一瞥し、そのタイミングでハラの取り巻きのひとりと目されている生徒が大袈裟にははしゃぐように声を張り上げた。

「うわっ、“陰キャ”と話したん? 気持ち悪っ!」

 これも「グループLINE」での打ち合わせ通りである。この大袈裟なはしゃぎっぷりを宥めるようにハラが声を上げる。

「レンは“陰キャ”だぞ。わかってるな――」

 ハラが言う「わかってるな」は、「陰キャのレンと関わるな。関わったらお前も“陰キャ”として俺たちのグループはもちろん、クラス全員が無視するからな」という意味であることは、クラス全員が暗黙理に承知していた。