スラップ裁判という卑劣な手口

 先の側近はこう語った。

「社内で長時間労働を撲滅しようと取り組んでいるタイミングで、横田さんの本が出て、横やりが入ったように感じたんでしょう。それがどうしても許せなかったんだと思います」

 柳井の気持ちを知るには、柳井に直接聞いてみるしかない。しかし、柳井の本音を脇に置いても、この訴訟には、はっきりとした効果があった。ユニクロが文藝春秋を訴えた後、ユニクロの労働問題を問う報道が一時期ピタリと止まったのだ。

 言論を封じ込めることを目的とする裁判を、〈スラップ裁判〉と呼ぶ。

 スラップ裁判とは、どんな訴訟だろう。

 月刊誌「サイゾー」に寄せた電話取材のコメントを〈オリコン〉から名誉毀損として5000万円の損害賠償で訴えられた経歴を持つジャーナリストの烏賀陽弘道は、ジャーナリストの西岡研介との共著『俺たち訴えられました!』でスラップ裁判を次のように定義している。

 スラップ裁判とは、資金や組織などの資源を持つ強者が、裁判という手段に訴えることで言論機関を威嚇することにより、不利益になる発言が広まるのを妨げる目的で起こす裁判を指す。そこでは、提訴すること自体に意味があり、勝ち負けは二の次だという。訴訟の体裁をとりながら、報道の自由を妨害するのが本当の目的だ。

 ユニクロが起こした裁判こそが、まさにスラップ裁判に他ならなかった。ユニクロが自分達が気に入らない記事や書籍を簡単に訴えてくるのなら、メディア側が報道に二の足を踏むのは当然だ。