ユニクロ、amazon、ヤマト運輸、佐川急便からトランプ信者の団体まで――。組織に潜入し実情を掘り起こしてきた「潜入記者」が、その取材方法を明かす。5W1Hでメモを残し日々見返すことは基本であり、隠し撮りによる録音も重要な武器になる。悩ましい疑問の一つは、相手に無断で録音することは法律に触れるのか、という点だ。答えを言うと、通常の取材手段としてなら原則として問題ない。それでは、潜入取材そのものが企業の守秘義務契約に抵触し、罰せられることはあるのだろうか?
※本稿は、横田増生著『潜入取材、全手法』(角川新書)の一部を抜粋し再編集したものです。
ユニクロはアルバイトやパートにも
「守秘義務」を毎日のように念を押す
潜入取材でもう一つ悩ましいのは、果たして、潜入取材という手法は、企業の守秘義務契約に抵触するのか、という点だ。アルバイトの採用の際、採用条件に、守秘義務を守れという文言が入った書類にサインした場合、潜入取材によって罰せられることはあるのか。
結論から言えば、会社の規則として罰することはできるかもしれないが、法律上の効力は極めて疑わしい。
言うまでもなく、会社の規則より、法律の方が上位概念だ。法律で罰することができないことを会社の規則で罰することは、規則として破綻していることを意味する。つまり、そんな規則に従う必要はないのだ。
役員や正社員のみならず、アルバイトやパートにまで守秘義務を守れと、毎日のように念を押すのがユニクロだった。たとえば、ある店長は、朝礼の最後に、「今話したことは企業機密ですので守秘義務にあたります」とくぎを刺すのを忘れなかった。
そのユニクロへの潜入ルポを書く時、新しいことを試みた。現在進行形で働いている間に、その事実を書いたのだ。これまでも、さまざまな潜入ルポが書かれてきたが、取材の途中で記事や書籍にした書き手を私は知らなかった。
そこには、“守秘義務絶対主義”ともいうべきユニクロの潜入取材の内容を、アルバイトの在職中に書くとどうなるのか検証したいという気持ちがあったからだ。
そう考えて、2016年12月に発売された「週刊文春」に「ユニクロ潜入一年」という記事を書いた(あとに出版される本の書名も『ユニクロ潜入一年』だった)。週刊誌が発売されたのは木曜日のこと。新聞広告にも、電車の中刷り広告にも、「ユニクロ潜入一年」の大きな見出しが載った。