三田紀房の受験マンガ『ドラゴン桜2』を題材に、現役東大生(文科二類)の土田淳真が教育と受験の今を読み解く連載「ドラゴン桜2で学ぶホンネの教育論」。第6回は、東大生を悩ませる「科類のリアル」を解説する。
合格最低点が低い科類を受験→入学後に進路変更はアリ?
現実はそんなに甘くない
偏差値が50~55の早瀬菜緒と、偏差値52.5の天野晃一郎を迎え、正式に東大専門コース「東大専科」を発足させた東大合格請負人・桜木建二。
「偏差値50代前半が1年間勉強して東大合格!これはごく当たり前。普通に実現可能なことなんだ!」と言ってのけ、早瀬に文科一類、天野に理科二類の志望を命じた。
東京大学では、入学後2年間を「前期教養課程」とよぶ。そのうち1年半は「文科一類」「文科二類」「文科三類」「理科一類」「理科二類」「理科三類」のいずれかに所属することになる。
一般的には、文科一類は法学部、文科二類は経済学部、文科三類は文学部や教育学部、理科一類は工学部や理学部、理科二類は農学部や薬学部、理科三類は医学部医学科に進学する人が多い。
2年の春学期までの成績をもとに、「進学選択」(通称「進振り」)で、その後の進路が決まるのである。そのため、例えば文科二類から農学部に進学したり、中には文科一類から医学部医学科へ進学したりする強者もいる。
文科一類から法学部以外へ行くことを「脱法」、薬学部へ行くことを「脱法ハーブ」と俗称するという話も聞いたことがある。
「だったら、合格最低点が低い科類で受験し、進振りで本来行きたい学部に行けばいいじゃないか」という意見も出てくるかもしれない。ただ、現実はそう甘くない。
「○科○類→○○学部○○学科」の組み合わせは定員が決まっているからだ。
例えば、私が所属する文科二類には373人いるが、文科二類から経済学部へ進学できるのは半数程度だ。細かいことを言えば、文科二類から経済学部へ進学する枠(「指定科類」と呼ばれる)の他に、科類を問わない「全科類」枠がある。
同じく、「全科類」枠から医学部医学科へ進学できるのは1名しかいない(※)。この枠を掴み取るのは至難の業だろう。(※)東京大学 大学院総合文化研究科「2025年度進学選択 第一段階進学定数(学生向け掲示)」2024年6月20日時点データより
多くの学校や塾では、科類の違いとして合格者最低点が取り上げられる。文系であればその差は概ね1~2点だし、理科一類と理科二類の合格者最低点の差は十数点だ。ただし、科類によって採点基準が異なるとも言われていることは付け加えておく。
そのために、東京大学へ合格することを最優先とし、出願直前で志望科類を変更するということも聞く。
「第二外国語のクラス編成」は一つの判断材料に
受験前から進路選択も視野に入れて戦略を練ろう
だが、進振りで特殊な進路を取るための勉強は、もしかすると受験勉強以上に辛いものかもしれない。
あまり強調されることのない、「進振りのリアルな数字」をみて、進路の参考にするのは有効な手だ。これらの数字は、東京大学前期教養学部のホームページで確認できる。
意外と知られていない科類の違いは他にもある。
東京大学教養学部前期課程では、「第二外国語」によってクラスが設定され、そのクラス内で授業を一緒に受けたり日常を過ごしたりする。
言語にもよるが、概ね30人前後のところが多い。希望者が少ない言語は文系・理系で1クラスしか設置されない。理ロシ=理系ロシア語選択、文コリ=文系韓国語(コリアン)選択などと呼ばれる。
ただし、フランス語や中国語など履修者が多い言語は、科類によってクラスが分かれる。
この分かれ方が、「文科一・二類」「文科三類」「理科一類」「理科二・三類」というふうになる。つまり、法学部志望と経済学部志望が一緒に授業を受け、薬学部志望と医学部医学科志望が一緒に日常を過ごすのだ。
これをどう思うかは人それぞれだろう。だけれども、入学前にこの情報を知らなかった身としては、もし知っていれば一つの判断材料にはなったと思う。
各学校や塾も、合格者最低点のみならず、その後の進路や大学生活に焦点をおいた情報提供も心がけるべきではないだろうか。