ユニクロが文春に「2億円訴訟」を起こした理由、潜入記者が語る裁判の全貌Photo:Diamond

ユニクロ、アマゾン、ヤマト運輸、佐川急便からトランプ信者の団体まで――。数々の組織に潜入することで、世に知られていない実情を掘り起こしてきた「潜入記者」が、名誉棄損裁判でユニクロに完勝した経緯を初告白!証言台でのやりとりまで詳細に、嘘偽りなく明かす。【前中後編の前編】(ジャーナリスト 横田増生)

2億円裁判の始まり

 日経BPから出版された『ユニクロ』(杉本貴司著)は、500ページ近い大著でありながら、8万部を突破して売れ続けている。企業系ノンフィクションとしてはベストセラーと呼んでいい。

 その書籍の中で、2回、「割愛」という言葉が出てくる。

 最初は、2010年当時の中国の委託工場での劣悪な労働環境に関して。

この年の5月に『週刊文春』で「ユニクロ中国『秘密工場』に潜入した!」との記事が掲載され、翌年にはこの記事を書いたジャーナリストの横田増生が『ユニクロ帝国の光と影』(文藝春秋)を刊行した。/中国の工場や日本の店舗での過酷な労働環境を実に生々しくレポートしたものだ。その詳細は『ユニクロ帝国の光と影』と、その続編とも言える『ユニクロ潜入一年』に詳しく述べられているので、ここでは割愛する。

 2回目は、上記の『ユニクロ帝国の光と影』に対し、ユニクロが起こした裁判について。

文春に対して起こした裁判ではファーストリテイリングは「実相とかけ離れた書き方」がされているとした上で「虚偽の報道は看過できない」と主張したが、裁判の詳細はここでは割愛する。

 ベストセラーで割愛されたのは、私の書籍と、それを訴えたユニクロの裁判についてであった。裁判については、どちらが勝ったのか、負けたのかという結果すら“割愛”する徹底ぶりだ。

 自著『ユニクロ帝国の光と影』が名誉毀損で訴えられたのは、10年6月のこと。ユニクロ側は、書籍と雑誌記事によって名誉を傷つけられたとして、2億2000万円の賠償金に加え、書籍の回収と絶版、さらには大手新聞各紙への謝罪広告の掲載を求め訴訟を東京地裁に起こした。

 この当事者である私が、〈文藝春秋vs.ユニクロ裁判〉の全貌について語ろう。ユニクロは自ら起こした裁判の結果、自らが“ブラック企業”であるとの烙印を押されることになる。