言論封じで裁判を振りかざす企業

 スラップ裁判に詳しい弁護士の青木歳男は、こう語る。

「訴える側の大企業にとっては、自分たちの社会的な評価を低下させる表現を見つけ、あとは訴訟を弁護士に依頼すればいいだけだから、うるさいメディアを黙らせるには低廉なメディア対策なのだ」

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 自らも〈幸福の科学〉から8億円という高額訴訟を仕掛けられた弁護士の山口広は、スラップ裁判の要諦は高額請求にある、という。

「高額な賠償金を吹っかけ、マスコミがその企業について書くと面倒なことになる、と思わせるのがスラップ裁判の狙いです。ユニクロ側の2億2000万円という賠償金は明らかに高すぎる。

 名誉毀損でこれまで1000万円以上の請求が認められたことはほとんどないことから考えれば、請求額は2000万円でも十分。2億円超なんて認められることがない額であることがわかっていながら吹っかけている点からも、この『ユニクロ帝国の光と影』に対する訴訟はスラップ裁判と考えることができます」

 言論封じを目的に裁判を振りかざしてくるのは、ユニクロだけではない。先に挙げた烏賀陽弘道を訴えたオリコンや、「週刊東洋経済」を訴えた人材派遣会社のクリスタル(2010年に倒産)、「週刊金曜日」などを訴えた消費者金融の武富士――など枚挙にいとまがない。

 スラップ裁判の大きな特徴は、マスコミを委縮させ、自分たちの不利になる事実を明るみに出ることを何としても防ごうという点である。そうした裁判が、民主主義における言論の自由を歪めるのは論を俟たない。