上げなくても上がるから
上がらないままだった賃金

 ところが1990年代以降、「ベアゼロと定昇堅持の時代」に突入すると、このエスカレーターは空間上の同じ位置でただぐるぐると回るだけになってしまいました。エスカレーターに乗っている個々の労働者(正社員)の目には、自分の賃金が毎年上がっているように見えても、全体では全然上がっていないという、手品の仕掛けはまさにここにありました。

 この事態をいささか風刺的に表現してみるとするならば、「上げなくても上がるから上げないので上がらない賃金」ということになるのではないでしょうか。

「上げなくても」:ベースアップという形で無理やりにでも賃金総額を引き上げるということをしなくても、
「上がるから」:定期昇給という形で毎年正社員1人ひとりの賃金は上がっていくものだから、
「上げないので」:わざわざ苦労してベースアップして賃金を引き上げるということをしなくなってしまったので、
「上がらない」:結果として日本人全体の賃金水準は全然上がらないままになってしまった、

 というわけです。