まさに70年前の1954年に関東経営者協会が述べたように、「個々の労働者はエスカレーターの各段階、即ち基準線の一定の所に位置し、年々職務遂行能力の上昇によって、段階を昇って行くが、最上段の労働者が企業外へ離職して行き、新たにその代りに最下段に新しい労働者が入り、エスカレーター全体いわば人件費総額は内転して常に一定である」のです。

図3 年齢構成一定下での定期昇給制による内転 21歳から60歳まですべて1人ずつの企業で、初任給21万円から毎年1万円ずつ昇給していくという想定のグラフ。この場合、人件費の総額は常に一定になる 拡大画像表示

 労働組合の激しいベースアップ攻勢に苦しんでいた当時の経営者側が、何とかしようとひねり出したこの絶妙のアイディアは、しかしながらそれから40年間実現することはありませんでした。労働組合側は当然の権利としての定期昇給に加えて毎年高率のベースアップを要求し、実現させてきたからです。

 ベースアップとは、内転するエスカレーター自体をクレーン車でもってぐいっと上に引き上げるものです。これにより、日本の労働者の賃金は個人的に定期昇給するだけではなく、それ以上に毎年ベースアップにより全体として上昇していき、それらを全部足し上げたマクロ経済的な真水の賃上げ部分として、日本人の賃金水準自体を右肩上がりに引き上げてきたのです。