ボタンを押す人なんているはずがないと思うだろう。ところが、である。その15分で42人のうち18人が、みずから電気刺激を受けることを選んだ。18人も、である(それも一度だけではない。この報告で私がひときわ気にいっているのは、自分で刺激を190回受けたという極端な人物の話だ)。
報告書にはこうある。「興味深いのは、多くの参加者にとって15分間自分と向きあうという、ただそれだけのことが、前段階で金銭を払ってでも避けたいと申告した電気刺激を、みずから選択したくなるほど、大きな嫌悪感をもよおさせるという点である」
これまでに取りあげた特徴を考えあわせると、スマホはトロイの木馬(巨大な木馬に兵士を潜ませ、難攻不落の都市トロイを内側から陥落させた故事)のデジタル版だ。一見して無害に思えるデバイスは、じつは巧妙な罠を満載して油断を誘っている。いったんガードを下げれば、私たちの注目は奪われ放題だ。