女性を口説く男へ
村上春樹の忠告

 ところで暇な折、『村上さんのところ』を取り出して読んでいると――。

 読者のさまざまな質問に作家の村上春樹氏が答えるという体裁の本なので、似た質問と答えはないかと探してみたわけですが、「ふたりきりの食事の意味」の項目が目にとまったときは、あった!と急いで文字を追いました。

 内容はこうです。

 41歳の独身女性が同じ会社のおじさんに、ビーフシチューのお店に行かないか、と誘われご馳走になるのですが、そのおじさんから、ふたりで食事に行くっていうことは気があるって考えていいかと聞かれます。女性が「考えちゃダメに決まってます」と答えると、じゃあ今日はなぜここに来たの?と聞いてくる。

「美味しいものが食べられると思ったから」

 彼女の答えは実に率直でした。

 そのおじさんとは以前からほかの仲間たちと一緒にご飯を食べに行ったりして、面倒なこともなく楽しい会話ができる相手だと思っていたので、その気軽さから食事の誘いを受けたようです。

 それに対して村上氏は、こんなふうに答えています。

 僕もときどき一緒にご飯を食べたり、野球を見に行ったりする年下のガールフレンドはいますが、口説いたりしないですね。はっきり分けて考えているから。そういう仕分けができない人は困ります。だいたい口説いていいかどうかは、気配でわかるものです。(村上春樹『村上さんのところ』)