強いだけで退屈なレスラーという烙印を押された王者。

 弱い上に魅力もない落ちこぼれの挑戦者。

 しかし飛鳥と千種のふたりは、共に不退転の決意でこの試合に臨んでいた。

「汚い」と嫌う先輩、差別した同級生…
自分を蔑んできた者を思い浮かべた千種

 実力以上の何かを観客に、そして全女フロントの松永兄弟に見せつけない限り、自分たちに未来はない。リングに上がった時の千種の目はふだんとは違っていた、秘めたるライバル心が現れていたからだろう、とライオネス飛鳥は言う。そして、おそらくは自分の目も同様であったに違いない、と。

 ふだんと違うのは選手ばかりではなかった。ふたりがリングアナウンサーからのコールを受けた時に、わずかではあったものの観客から紙テープが飛び、声援が送られたのだ。

 意外な観客の反応に勇気づけられたふたりは、ゴングと同時に試合に集中していく。

 張り手の応酬で始まり、やがて凄まじい蹴り合いへと変わった。相手の不意をついて顔面の急所にパンチを入れるという種類の試合ではない。あくまでもプロレスの範囲内の試合である。ただし、渾身の力を込めて殴り合い、蹴り合うのだ。

 戦う内に、千種には飛鳥の顔が先輩たちの顔に見えてきた。