千種が殴り、蹴っているのは、自分を「汚い」と嫌う先輩たちであり、負け犬呼ばわりする松永兄弟であり、庭に追い出した伯父であり、自分を「バーの子」と差別した同級生であり、教師であり、世間そのものだった。

 飛鳥には千種の心の内部は見えない。それでも、千種が対戦相手以外の何かを蹴り続けていることは、ひしひしと伝わってきた。

松永兄弟への怒りを込める飛鳥
そして試合は決着へ

 飛鳥もまた、際限なく千種を蹴り続けながら、自分を取り巻く何かを破壊しようとしていた。押さえ込みルールによる真剣勝負を命じているのは松永兄弟であり、実力でWWWA王者にまで上りつめたのがジャガー横田だ。

 つまり、全女は実力社会なのだ。自分は近い将来、ジャガー横田を実力で破って赤いベルトを巻くつもりだ。ジャガー横田を破ることができるのはライオネス飛鳥しかいない。なのになぜ、松永兄弟は強い自分に「つまらない」などと言うのか。なぜ実力以外の価値基準を、ここにきて持ち出してくるのか。矛盾しているのは自分ではない。松永兄弟なのだ。