不良債権処理と民間の活力なしには
景気回復はあり得ない
中国政府は国民の懸念や不安を考慮して、財政・金融政策の再調整に躍起となっている。これにより、短期的に景況感が変化する可能性はある。中には「ターニングポイントがようやく来た」などとみる向きもあるが、そう論じるのはやや早計だろう。
二つのポイントを指摘したい。まず、不動産や地方融資平台の債務問題をどのように解消するかが見えないことだ。刺激策で需要を喚起する一方で、不動産デベロッパーの不良債権処理を進めないことには、銀行の収益性低下や、自動車をはじめとした重工業の過剰な生産能力など付随する問題の解決も難しい。
もう一つは、政府が中国経済の強みを生かす方策を示せていないことだ。リーマンショック後、中国では民間のアリババやテンセントなどが急成長を遂げた。また、半導体関連の技術革新も目覚ましく、ファーウェイの設計開発や、中芯国際集成電路製造(SMIC)の製造技術に関して、半導体トップ企業である台湾積体電路製造(TSMC)との技術格差も縮まってきているという。これらの分野に明るい中国人ビジネスパーソンの成長意欲は旺盛だ。企業家の野心、自由な意思決定を政府がもっと認めれば、成長分野に経営リソースが再配分され、景気回復の萌芽も出ることだろう。
しかし今回、中国政府は経済と社会への統制、IT先端企業への締め付けを緩める考えは示さなかった。企業家のリスクテイクを促す策も示さなかった。そこに、中国政府の「政治優先姿勢」が見て取れると指摘する経済の専門家は多い。
振り返ると18年には中国で5万社を超える企業が設立されたようだ。中国内外のベンチャーキャピタルなどの投資ファンドは積極的に資金を供給した。ところが、24年1~8月の起業件数は260社程度だった。スタートアップ企業によるドル、人民元での資金調達市場は事実上の停止状態にあると考えられる。
家計や企業は債務の返済を急ぎ、経済全体で需要は盛り上がりづらくなっている。その状況下で政府が追加の対策を打てば、国民は早くも次の策を催促し始めるだろう。利下げや量的緩和に加え、中国全体で国債発行が増加し、中央・地方政府の財政悪化リスクも高まりそうだ。中国経済が不良債権問題を克服し、景気の本格的回復につながるか、その出口はいまだ見えそうもない。