今週のキーワード 真壁昭夫Photo:PIXTA

中国政府は、退職年齢(定年)の引き上げを決めた。男性は60歳から63歳へ、女性労働者は50歳から55歳に、女性のホワイトカラーは55歳から58歳へ、段階的に引き上げる。主な狙いは、年金の財源確保だ。定年引き上げとセットで社会保険料の最低支払期間を延長する。1960年、中国の平均寿命は約44歳だったが、2021年には78歳となった。一人っ子政策による深刻な少子高齢化問題を解決するためにも、建国以来、初となる本格的な社会保障制度の改革に迫られたわけだ。しかし、不動産バブル崩壊による足元の不況に加えて、中国ならではの「ある死角」が、改革の行く手を阻むだろう。(多摩大学特別招聘教授 真壁昭夫)

年金の財源が足りない!
中国で「定年」を引き上げへ

 9月13日、中国政府は、法律で定めた退職年齢(定年)を段階的に引き上げることを決めた。主な狙いの一つは、年金財政の逼迫(ひっぱく)への対応とみられる。中国でも人口減少、少子高齢化が進み、社会保障制度など、さまざまなシステムの限界が露呈し始めている。今後、中国政府はあらゆる対応策を実行する必要がありそうだ。

 1970年代末以降、中国政府は食料の安定供給と社会平和を維持するため、人為的に人口の増加を抑えた。それが、「一人っ子政策」である。政策は2016年に廃止されたものの、少子高齢化は止まる気配がない。人口に占める高齢者の割合は、主要国のうち最速のペースで上昇している。

 今回の定年引き上げが、本当に中国社会の安定につながるかどうかは不透明だ。その理由の一つは、中国の戸籍制度にある。中国は農部と都市部で戸籍を分けて管理してきた。社会保障の受給内容などは戸籍にひも付いている。そのため、都市部と農村部の格差は一段と拡大した。加えて今は、不動産バブル崩壊による不良債権問題が深刻化している。人々の節約志向は高まり、デフレが進行しつつある。

 社会の安定した生活を支える仕組みが未整備なまま、働く人の定年を延長すると、若年層へしわ寄せが波及する恐れが高い。定年の引き上げと同時に、戸籍など社会システムの問題を解決することが必要だろう。それができないと、人々の不安心理を増幅させることにもなりかねない。