日本人の暮らしは、ここ60年で目覚ましい進歩を遂げてきた。インターネットの普及と物流の進歩によって便利で豊かな世の中になったはずなのに、現代人は幸せになったと言えるのだろうか。むしろ、世論調査によると約7割が不安を抱えているのだという。その「不安」の源は、現代人が「地に足のついた生き方」から離れてしまったからだと指摘するのが、渋沢栄一のひ孫である渋沢寿一だ。里山の暮らしに関わり続けてきた渋沢が、持続可能な世界のあり方について語る。※本稿は、渋沢寿一『森と算盤 地球と資本主義の未来地図』(大和書房)の一部を抜粋・編集したものです。
いまは豊かに暮らしているのに
将来のことは不安でいっぱい
この60年を振り返ると、科学技術は進歩し、モノも豊かになりました。それは、戦後の焼け野原から再出発した世代が、幸せな時代をつくろうと一生懸命働き、新しい社会と技術を生み出してくれたからです。
様々な商品やサービスが生まれ、暮らしもものすごく便利になりました。少し歩けばコンビニやスーパーがあって、多くのものが手に入れられます。自動車によって個人でも遠くまで自由に行けるようになりましたし、インターネットによって情報が瞬時に手に入れられ、地球の裏側の人ともやり取りができます。日々の選択肢は飛躍的に増えました。
では、現在の私たちは日々の暮らしに幸せを感じているでしょうか。
内閣府の「国民生活に関する世論調査」を見ると、この60年間で日常生活に不安を感じる人の割合がとても増えています。約7割の人々が日々不安を感じていると言います。これだけ豊かになったのに、なぜ不安なのでしょうか。
その要因の1つは、自分や家族の生活がお金に支配されていることで、激動する経済の変化の中で、いつお金を失ってしまうかわからないことへの不安ではないかと思います。「どうやらこのままの暮らしを続けることは難しそうだ」という思い、また、バブル崩壊やリーマン・ショックのときのように「不景気になって仕事がなくなったらどうしよう。お金がなくなったらどうしよう」という心配などがあるでしょう。