その不安の根本には、「地に足のついた暮らしを送っていない」ことがあると私は思います。地に足がついていない、というのは、具体的には、生きることに直結する衣食住を自分で調達できない、自分の食べるものや身につけるものがどこでどのように作られたのかわからない、お金で買うしかない、という状態のことです。

地に足のついた暮らしを
日本人はすっかり忘れてしまった

 現在の私たちの暮らしは、経済に大きく依存しています。お金を持っていなければ生活していけないと多くの人が思っています。

 しかし、昔は日本人のほとんどがお百姓(農民ではなく)でした。

 百姓とは、生きることすべてを自分で賄うことができる人、百(すべて)の仕事ができる人を指します。田畑を耕し、家畜を育て、山で燃料や食料を採取し、家も自分たちで建て……と、生活のほとんどすべてを同じ村の人々と協力しながら、自分で賄っていました。そのぶん手間がかかり、経済的な稼ぎは少ないですが、自給をベースとした生活なので、金銭は多くは要りません。自分たちのできる範囲で生きていくという、地に足のついた暮らしです。

 日本人が長いこと続けてきた地に足のついた暮らしを、私たちはこの60年あまりですっかり忘れてしまい、一方で不安を大きく募らせているのです。