米陸軍の少佐として、イラク戦争に従軍したブレント・カミングズ。正しいことをおこなうというアメリカ人の理想像を父から教えられて育ったが、そんな彼から見ると、それとは真逆の人物がアメリカ大統領になったことは大きな衝撃だった。ブレントがどうしても許せなかった、トランプの振る舞いとは?※本稿は、デイヴィッド・フィンケル著、古屋美登里訳『アメリカの悪夢』(亜紀書房)の一部を抜粋・編集したものです。
酒、肉、金、女、女、女!
若き日のトランプの悪ふざけ
最初にブレントがドナルド・トランプについて考えるようになったのは、高校時代にニュージャージー州を友人のリッチとアイリーンと3人でドライブしていたときのことだ。
当時の彼の車は古いフォルクスワーゲン・ビートルで、後ろには座席がなかった。それで助手席にはいつもリッチが座り、アイリーンは後ろのフレームに膝を抱えるようにして座り、その状態でブレントは坂の多い田舎道を疾走した。楽しい時間だった。
大きな起伏があるとアイリーンの体が天井まで浮き上がり、そのたびに「スピードを落として!」とアイリーンが叫んでは3人とも大笑いした。ラジオからハワード・スターン(ラジオパーソナリティ、コメディアン)ががなりたてていた。そこにときどきゲストで出演していたのがドナルド・トランプだ。彼が自慢げに話していたのは、ワインとステーキとカジノと、そしてもちろんセックス、数え切れないほどのセックス、いちばんよかったセックスのことだった。
「下品なやつだった」とブレントは言った。「でも、悪ふざけをしてるってことはみんなもわかっていた。俺たちみんな、この悪ふざけに一枚噛んでいた」