日本の伝統芸能のひとつに数えられる「落語」。寄席の高座に上がった落語家が、愉快な滑稽噺や涙を誘う人情噺を披露する、というイメージを抱いている人も多いはず。かの有名落語家、立川談志18番目の弟子にして、多くの著作を持つ“本書く派”の落語家・立川談慶氏は落語には現代人の悩みを解決するヒントが多数隠されているという。怪談噺「番町皿屋敷」を滑稽にアレンジした演目「皿屋敷」から、仕事を“サボる大切さ”を説く。※本稿は、立川談慶氏『落語を知ったら、悩みが消えた』(三笠書房)の一部を抜粋・編集したものです。
落語が持つ不思議な力で
「悩みが消えた」人たち
お江戸上野広小路亭で隔月で独演会をやっています。
コロナに悩まされること5年弱、収束を迎えつつあるとは言いながらも、「コロナが収まったら落語会に行きます」というメッセージをもらいながら、かつてのような集客にはつながらず、苦戦している落語家は私だけではありません。
ただ、こんな環境でも、「こんな環境だからこそ落語に触れたい」「落語でしみじみといい気分に浸りたい」という一定数のありがたい方はいらっしゃるようで、難儀しながらも、どうにかこの稼業を続けられています。
不思議ですよね、落語って。
漫才やコントみたいに、爆発的な笑いが前提となっているわけではありません。歌舞伎みたいな様式美もありません。映画やドラマのような影響力もありません。
でも、でもです。
前述したお江戸上野広小路亭の独演会に、たまたま通りかかった若いお客さんが入ってきて、終演後に「なんだか、抱いていた悩みが消えていました」と言ってくれたのは一度や二度どころではありません。そして、そんな方に「よかったら、打ち上げで一杯やっていきませんか?気の置けない仲間ばかりですよ」とお誘いすると、「いいんですか」と一緒の席でビールを飲みながら落語家のバカ話に爆笑している。そんな姿を見ると、「案外、社会貢献しているのかもな」とふと思いたくなるものです。