根気強くひとつのことを考えられない、寝ても疲れが取れない、歩くのが遅くなった……。「老い」は気付かぬうちに少しずつあなたを蝕んでいく。老いを少しでも遅くしたいと願わない人などいないだろう。そこで、食事術や生活習慣といった「不老術」をアメリカの名医がまとめた本が誕生、NYタイムズベストセラーに選ばれ、エリック・シュミットといった数多くの著名人から絶賛を受けている。世界9カ国以上で刊行の話題作『医者が教える最強の不老術』より、内容の一部を編集して特別に公開する。
ハーバード大学の研究者が教えてくれた驚愕の実験
『LIFESPAN──老いなき世界』[梶山あゆみ訳、東洋経済新報社、2020年刊]の著者であるドクター・デビッド・シンクレアとハーバード大学の研究者たちは、NAD+[ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド]とサーチュイン[重要な生物学的修復プロセスをいくつも制御しているタンパク質]活性化にまつわる大部分の研究におけるパイオニアだ。
ナイアシン(ビタミンB3)に由来するNAD+は、ミトコンドリアにおけるエネルギー(ATP)産生システムの重要な一部だが、その作用はより広範に及び、細胞の健康、DNA修復、長寿といった、サーチュイン経路を活性化することを通して得られる下流の利益にも関与している。
NAD+は、体内で、NR(ニコチンアミドリボシド)とNMN(ニコチンアミドモノヌクレオチド)を経て生成されるが、そのいずれも体内のNAD+レベルを高めるサプリメントとしての研究が進んでおり、病気や老化に対する強力な保護効果があることが示されている。
ドクター・シンクレアと興味深い話をした際、彼は研究室で年老いたマウスにNAD+増強分子を与えたときの逸話を紹介してくれた。この化合物から強大なエネルギーを手にしたマウスは、マウス用トレッドミル[ランニングマシン]を文字通り破壊してしまったという。そのトレッドミルは3キロメートルも走るマウス用にはデザインされていなかったからだ!
若いマウスでも、へたばらずに走れる距離はせいぜい1キロにすぎない。NAD+は「マウス閉経」さえ逆転させ、年老いた雌マウスに生殖能力を回復させたという(*1)。
NAD+は、代謝と概日リズムを調節することにおいて、サーチュインを介して重要な役割を果たしている。NAD+は加齢とともに減少するが、それが意味することはサーチュインの活性の低下だ。
NAD+およびNAD+の前駆体であるNRとNMNを補給すれば、若い頃のNAD+のレベルを取り戻し、加齢に伴う病理を逆転させ、寿命を延ばせることが判明している。これらは、私を含め、第一線の老化研究者たちが毎日摂取している物質だ。
NAD+(およびその前駆体であるNRとNMN)は、健康寿命延伸における最も強力な発見の1つだと言えるだろう。それは、現在私たちが手にできる、若さの泉に最も近いものかもしれない(*2)。
*1 Bertoldo MJ, Listijono DR, Ho WJ, et al. “NAD+ Repletion Rescues Female Fertility during Reproductive Aging.” Cell Rep. 2020 Feb 11;30(6):1670-81.e7.
*2 Yoshino J, Baur JA, Imai SI. “NAD+ Intermediates: The Biology and Therapeutic Potential of NMN and NR.” Cell Metab. 2018 Mar 6;27(3):513-28.
(本原稿は、『医者が教える最強の不老術』から一部を抜粋し編集しています)