こうした状況を避けるために、下請けも含めた企業グループが、一体として賃上げ率を設定している場合もある。しかし、あらゆる中小零細企業が、こうしたネットワークによって救われるとは限らない。

 その典型が介護だ。この分野は、以前から低賃金で、人手不足に悩まされている。2024年には介護報酬が引き上げられるが、改定率は1.59%に過ぎない。他業種との差は、いままでより拡大する。

 賃上げが販売価格に転嫁されることの第二の問題は、賃上げが結局は消費者の負担になることだ。

 それによって実質賃金が下落するので、生活水準を保つために、さらに賃上げが必要になる。こうして、賃金の上昇と物価の上昇の悪循環が生じる。

 これは、きわめて恐ろしい病だ。1970年代初期の第1次オイルショックの際、多くの国がこのような状態に陥った。とくに顕著だったのがイギリスだ。労働組合の力が強く、原油価格高騰によって引き起こされた物価上昇が、賃金の上昇を加速して悪循環を引き起こし、イギリス経済は破綻の瀬戸際まで追い込まれた。