この見方からすれば、5%を超える賃上げは過剰だ。もっとも、「これまでは、実質賃金が低下した。これは、生産された付加価値のうち、不当に大きな部分が企業利益に回された結果だ。それをいま賃金が挽回している」という解釈はありうる。
そのように考えてもなお残る問題は、賃金上昇が販売価格に転嫁されることだ。それは、取引の各段階で次々に販売価格を引き上げ、最終的には消費者物価を引き上げる。
ここには2つの問題がある。第一に、転嫁は企業間の力関係によって大きく左右される。大企業が中小零細企業に対して販売価格を引き上げるのは容易だが、中小零細企業が大企業に対して販売価格の引き上げを要求するのは、難しい。
製造業の場合、大企業の下請けが中小零細企業であるのは、ごく一般的だ。こうした場合に、下請けが賃上げ分を大企業に転嫁するのは、きわめて難しい。
賃上げと物価上昇のスパイラルが
イギリス経済を破綻寸前に追い込んだ
したがって、中小零細企業における賃上げ率は、大企業に比べて低い水準になる可能性が高い。この問題は以前からあったものだが、賃上げ率が高くなった現状では、さらに大きな問題として浮かび上がる。