満開の桜の下で起きた奇跡
私たちが捜しに来るのを待っていた

 2019年3月、タチアナさんから日本語教室に通い始めたという報告のメールと、リュドミラさんを含めた家族全員(犬も一緒)の写真が送られてきた。

 日本の親族に会えないならせめてお墓参りだけでも、との気持ちは続いていた。それでは、結城三好氏の墓を捜してみようと提案してくれたのは、最初から協力し続けてくれた日本サハリン協会(編集部注/樺太およびソ連各地に残留を余儀なくされた邦人を支援するNPO団体)会長の斎藤弘美さんである。斎藤さんは民俗学の研究者でもあり、墓捜しに関しては経験と勘をもっている。

 とにかくやってみようと、4月後半、私たちはZ県に向かった。見つからなかったら、それは三好氏が私たちにもタチアナさんにも会いたくないということだ。死者は近づこうとする生者に何らかのメッセージを送る存在である。

 駅の観光案内所で尋ねると、町には2ヵ所の墓地があり、町民用の共同墓地が多くを受け入れているという。その共同墓地に向かった。満開の桜と広がる青空の素晴らしい日である。

 共同墓地は、国道わきのだだっぴろい敷地にびっしりと墓石が並ぶ殺風景な光景である。数百基はあるような数の多さに一瞬めまいが起きた。果たして見つけられるのか?ここで見つからなければ、夕方までかけてももう1ヵ所の墓地にいくつもりであった。