その中でも特筆すべきは、エケンボ(Ekembo heseloni:約1800万年前)やナチョラピテクス(Nacholapithecus kerioi:約1550万年前)である。これらには仙骨の一部が残存しており、その形態からすでにしっぽを完全に喪失していたことが判明している。

書影『しっぽ学』(光文社新書)『しっぽ学』(光文社新書)
東島沙弥佳 著

 このようにしっぽの喪失はヒトへ至る道のかなり根幹的なところで生じた一大事だった。

 ただ、肝心なところに謎が残っている。現時点で、しっぽがある段階の化石ともうしっぽがない段階の化石が発見されているため、我々ヒト上科の祖先はこの間のどこかでしっぽを失くしたということは確かだ。

 しかし、この時期に相当する化石がまだ一切見つかっておらず、ヒトはいつ・どのように・なぜしっぽを失くしたのかは全く分からない。

 これこそが私を惹きつけてやまないミステリーである。