女性は社会の一部なのだから、ことさらに女性の視点を取り上げるのではなく、「社会の中核にある主要な制度」を大局的に考えるべきだというのである。

「タテ社会」への壁はあるが
内部はアメリカよりもフェア

 中根にとって、日本社会の「主要な制度」は「タテ社会」だった。「日本の村を調査したときに見た寄り合いでのやりとりと、東京大学で見た教授会のやりとりが同じだった」(注4)ことからタテ社会論の着想を得た中根は、戦後日本論の傑作とされる『タテ社会の人間関係 単一社会の理論』(講談社現代新書)を1967年に発表した。これはその後「日本社会(Japanese Society)」として多数の言語に翻訳され、海外における日本社会論に今日まで深い影響を与えてきた。

 このタテ社会において、中根は男女の区別は重要ではないと考えていた。日本の「タテ社会」の構造にいったん組み込まれてしまえば、女性であることはその社会の内部では障壁にはならないのである。社会で重要なのは階層や秩序であり、性差はさほど重要ではない。

 晩年のインタビューで中根はこのようにも語っていた。

 タテのシステムに入るのに壁があるのは事実です。これまで多くの人が苦労もしてきました。ただ、階層のはっきりある社会とくらべてみると、一度なかに入ってしまえば、上に行けないわけではないし、皆も同等な取り扱いをするのです。私の経験でいえば、アメリカでは、最後まで女性という性がついてまわります。

注4 『朝日新聞』2021年11月6日付