主語から始まる日本語の語順を、後置文にするだけであら不思議、凄みすら帯びたキメ台詞に早変わり!「普通の語順に戻したときとの差が大きく、そのギャップを味わうのが楽しい」と、言語学者である著者が倒置文の魅力を語る。本稿は、川添 愛『言語学バーリ・トゥード Round 2: 言語版SASUKEに挑む』(東京大学出版会)の一部を抜粋・編集したものです。
「いいんだね、やっちゃって」が
「やっちゃっていいんだね」では凄みが半減
倒置法が好きだ。そうは言っても、自分で使うのではなく、ふと耳にした倒置法を鑑賞するのが好きなのだ。
2021年秋、ラジオ日本の「真夜中のハーリー&レイス」に出演する機会に恵まれた。プロレス実況者の清野茂樹さんがパーソナリティを務める番組で、清野さんが毎週ゲストとトークという名のタイトルマッチを行うという内容である。プロレスファンの端くれとしては非常に名誉なことに、私は「言語学界からの初の刺客」ということで、トークに挑戦させていただいた。
番組中、清野さんから「プロレス関連で好きな言葉はありますか?」という質問を受け、私は永田裕志選手の「いいんだね、やっちゃって」を挙げた。
これは、2004年の新日本プロレス東京ドーム大会前に、永田選手が佐々木健介選手との試合について出したコメントである。
佐々木選手はその2年前に新日本プロレスを離脱し、長州力率いるWJプロレスに合流していた。しかしWJプロレスが1年余りで崩壊し、新日本に戻ってくることになった。それまで佐々木選手が抜けた新日本を支えてきた永田選手は、佐々木選手の出戻り行為に怒りを露わにした。そこで出たコメントが「いいんだね、やっちゃって」である。